「まさに愛と暴力と宗教のクロニクル」ブリムストーン つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
まさに愛と暴力と宗教のクロニクル
長らく「右の頬を打たれたら左の頬を差し出す」ような赦しの教えであるキリスト教的世界の、何とも言えないキナ臭さを不思議に思っていた。敬虔な祈りが天上の門を開き、人の原罪を全て引き受けるような男が広めた宗教であるにも関わらず、その世界観に生きる人々は、地獄で暮らしているようにしか見えないのだから私の困惑は的外れではないだろう。
今作「ブリムストーン」はその謎の解明に一役買ってくれた。指導者は、聖書の解釈を都合の良いようにねじ曲げられるのである。
女は男に支配されるのが当然、それが神の教えであると、聖書の一節を引用し(拡大解釈と意図的な抽出により)女に刷り込んでいくのだ。
21世紀の日本でのほほんと暮らしている私には、到底受け入れられない暴力的な理不尽さがそこにはある。
この映画は主人公・リズの年代記を宗教的時系列になぞらえ描き出している。
その手法は支配者が得意とし、現在に至るまで続けてきたものを正確にトレースしている。そこに力がある。
「お前たちのルールで教えてやったぞ」と。
一方的に押し付けられたルールの中で、懸命に抗い、時には受け入れ、懐柔し、それでもなお大切なものだけは見失わないように闘い抜いてきた。
全てに決着をつける第4章のタイトルは「retribution」、字幕だと「審判」となっている。リズの背負わされた「大罪」に対する「審判」のように思えるが、私はリズが全人生を賭けて守った存在に対する「無罪」の審判だと思っている。
彼女は闘う女性だった。その闘いは大袈裟なものではなく、個人的で小さな世界の闘いだったけれど、厳しい世界で生きていく一歩前を照らす光になった。
彼女の残したものが、それを雄弁に語っている。