劇場公開日 2018年5月18日

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のみとり侍 : インタビュー

2018年5月18日更新
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阿部寛&鶴橋康夫監督、中大の先輩後輩が出会いから30年で映画初タッグ

今年、「祈りの幕が下りる時」「空海 KU-KAI 美しき王妃の謎」と出演作が立て続けに公開される阿部寛とドラマ、映画界の名匠・鶴橋康夫監督が映画で初タッグを組んだのが「のみとり侍」だ。江戸時代を舞台に、長岡藩主の命を受け、女性に愛を奉仕する裏稼業の「のみとり」をすることになった武士が繰り広げる異色の人情喜劇。40年来の企画を実現させた鶴橋監督、出会いから30年にして念願の鶴橋監督作品に主演した阿部に、その思いを聞いた。(取材・文/平辻哲也、写真/堀弥生)

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原作は歴史小説の第一人者、小松重夫さんの短編集「蚤とり侍」。江戸時代に実在した、客の飼い猫の蚤を取るという「のみとり」をモチーフに、裏稼業として、女性客に愛を奉仕するという設定を加えている。長岡藩のエリート藩士、小林寛之進(阿部)が歌会の席で藩主(松重豊)に恥をかかせてしまったことから逆鱗に触れ、江戸での「のみとり業」を命じられるというストーリーだ。

阿部の鶴橋監督作品の出演は、黒澤明監督の名作をリメイクしたテレビ朝日のスペシャルドラマ「天国と地獄」(2007年)で警視役を演じて以来、約10年ぶりだが、映画ではタッグを組むのは初めてだ。2人の出会いは、阿部のデビュー当時の30年前に遡る。それは阿部が所属する事務所社長がもうけた酒宴だった。2人は中央大学出身(阿部は理工学部、鶴橋監督は法学部)という共通点もあった。

俳優デビュー前は男性向けファッション誌「メンズノンノ」の専属モデルだった阿部。「事務所に入って2日目か3日目だったんですよ。それまでは集英社のお抱えの学生でしたから、俳優事務所がどういうものか分からなかったんです。その席には奥田瑛二さん、大竹しのぶさんがいらっしゃった。俳優さんにお会いするのも初めてで、その俳優さんたちが尊敬している鶴橋さんという雰囲気のある方がいらっしゃった。今、考えれば、当時の鶴橋さんは今の僕よりも年下なんですよね。その都度その都度、鶴橋さんの作品に出られるようになりたいと思いましたが、50を過ぎて、ようやく願いが叶いました」と振り返る。

「僕は売れていない監督だったんで、隅っこにいた。彼がどんぐりまなこを光らせて長い足を組んでいたのを覚えている。最初の会話は大学が同じだということだった。長い間、一緒に仕事がやりたくて仕方がなかった。『天国と地獄』を経て、待ちに待って、誰もやってくれそうにない『のみとり侍』をお願いしてみた」と話す。

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阿部が演じる寛之進は思いがけず、“のみとり侍”になる最初の客は、亡き妻にそっくりの女、おみね(寺島しのぶ)。しかし、貞淑な妻とは正反対な性格の女性で、「この、下手くそが!」となじられ、寛之進は江戸ナンバーワンの色男、清兵衛(豊川悦司)に弟子入り。その性技を間近で見ながら、仕事の腕を磨いていくことになる……。

「のみとり侍」は鶴橋監督が40年来温めていた企画で、「後妻業の女」のヒットを機に実現した。阿部は「『後妻業の女』を見て、すごいな、キレキレだなと思いました。『のみとり侍』は喜劇なんですけども、安易にやってはいけないな、と思いましたね。鶴橋さんには『僕でよいのでしょうか』と聞きました。話も台本も面白いので、何もしないでそこに立っていればいい、という結論で。この大役を引き受けました」と話す。

撮影したのは「新参者」シリーズの最終章である「祈りの幕が下りる時」の後。「(加賀恭一郎役は)繊細な役だったので、体重を絞っていました。少し痩せ過ぎていたので、体重を増やしました。最後に殺陣のシーンがあったので、その準備もありました。役にギャップがあった分、楽しく演じることができました」と阿部。鶴橋組の特徴を聞くと、「現場の居心地がいいんですよ。監督の『何か文句はあるか?』という言葉から始まっていき、和むんですよ。安心感が役者だけではなく、スタッフにもある。監督は温かみをもって、『のびのびやれ』という。『俺は編集がうまいから』と笑わせてくれるし、いつのまにか、そういうおおらかな監督の雰囲気に包まれて、仕事をしていました」と振り返る。

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そんな中でも苦労したのは、寺島しのぶとの濡れ場という。「あそこまでのものは、やったことがなかったんで……。と言っても、豊川さんの真似をすればよかったんですが。豊川さんは鶴橋さんの作品を本当に分かっていてね、台本の清兵衛とは一味違うものを迷いなくやっておられていました。寺島しのぶさん、大竹しのぶさんといった鶴橋組の常連の方々にも嫉妬しましたね。すぐに間をつかんで、やられるんですよ」と明かした。

一方の鶴橋監督は、阿部の演技や魅力をどう見ていたか? 「俺は生きていないだろうけど、この先、彼は笠智衆さんみたいになっていくんだろうな。クソがつくくらい真面目で、勉強熱心だ。応用力もある。だから、楽な仕事をさせてもらった。彼には、ヒントだけ言っておけばよかった。後半の殿に諌言する庭のシーンではスタッフが泣いているんです。これは阿部さんの演技の勝利です。愚直な侍がひと夏の江戸探検でどんどん色っぽくなって、最後は怒りだけで生きられるようになる。出ずっぱりだけども、見ていてまったく飽きなかった」と褒め称えた。

この大学の先輩でもある名匠の大絶賛には、阿部も照れ笑い。「いやぁ、プレッシャーかけないでくださいよ。これを励みに、頑張りたいと思います。なにせ、ここまで30年かけて、やってきたことですから、自分なりに丁寧に、抑えながら演じました。監督は『のびのびやってくれ』とおっしゃってくれましたけど、面白くやってしまうので、監督と相談しました」と話した。

鶴橋監督は「よく、ここまで(の完成度まで)来られたよね。気分が高揚していて、うれしくて仕方がない。これで、この作品は俺の手から離れて観客の評価を受けることになる。彼と覚悟を分かち合って生きてきた『のみとり侍』が、大きな怪物に化けてくれればいいのだが……」と期待する。阿部には「次に何をやるかを考えてくれ。俺も考える。阿部ちゃんがびっくりするような役をエントリーしたい。その前に、これを当てないとな。見捨てられるからね」。最後はまろやかな低音を響かせ、豪快に笑ってみせた。

「のみとり侍」は5月18日、公開される。

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