「やっと会えたの~」Vision kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)
やっと会えたの~
やはり河瀨作品は音を大切にしてるんだな~と感じた。始まりは夏。木々のざわめき、ツクツクボウシとヒグラシの声、森の中はこんなにも音がするのだと心地よくなってくる。吉野の山奥なので夏が過ぎ去るのも早いのか、木こりの永瀬正敏とジュリエット・ビノシュがベッドを共にする時期には秋の虫の声も聞こえてくる。
素数というキーワードとともに「1000℃→VISION→PAIN」という謎めいたテーマを突きつけてくる。素数というのは他の数字と交わることがないなどと言われると、それを人間の交わりに引っ掛けてるんだなとわかる。交わらない997年というもっともらしい素数に不思議と魅かれていくのだ。
“PAIN”には×が記され、「痛みをとること」という結論。風の当たり方、木々の靡き、雨と光のバランスに違和感がある・・・という智の言葉はアキが去り、犬のコウも死に、そして鈴が現れたことの前兆に過ぎなかった。自ら死を選んだ盲目のアキには心を通して全て見えていたと思われるが、その千年というキーワードは誰から受け継いだものなのだろうか。時折、地元の爺ちゃんらしき人が、伝承について語っていたが、血の繋がりではない何かが伝えていったように思う。そう考えると、アキと同じように智も世捨て人となった(原因はうつ病っぽい)のも、今後VISIONを語り継ぐ語り部としての役割しか与えられてない気がするのです。ただ、恋人を得たので役得ではあるのだが・・・
結局、痛みをとるのは、恋人を誤射で亡くした傷心状態から楽になったジャンヌ。そして、祖父母に育てられていた鈴が母親がいるはずだと惹かれるように森に入って、母親を見つけたおかげで両親のいない心の痛みから解放される。VISIONという胞子は、名前の通り、目に見えないものだったのか。そう考えるとスッキリ。トンネルがメタファーだとも思えるけど、その先には象の墓場のような場所があるという暗さも自然の美しさと対照的だった。