戦狼 ウルフ・オブ・ウォーのレビュー・感想・評価
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なかなかの迫力のアクション映画ながら、中国の国威高揚映画の様に思えて、気持ちが悪い
ウー・ジン 製作総指揮・脚本・監督・主演の2017年製作(123分/R15+)中国映画。
原題:戦狼2 Wolf Warrior II、配給:KADOKAWA、劇場公開日:2018年1月12日。
内戦となったアフリカが舞台で、取り残された中国人同胞の救助に大活躍する元軍人レン・フォン(ウー・ジン)の姿を描いていた。中国で歴代の最高記録を塗り替える大ヒットとか。
米国も含めて他国の海軍は逃げたが、中国海軍は近海に留まり、残された中国人のためにミサイル攻撃までを行う。中国軍に関して、昔は弱かったが、今は同胞を力で守りきれると言い切り、中国人の自国武力に対する自信、及び遠い海外においてさえの戦意を感じさせ、かつての大日本帝国の報道を見ている様で、凄く気持ちが悪かった。軍人への素直すぎる敬意も含めて。
とは言え、少しスローテンポが歯痒いところもあったが、アクションはそれなりの迫力。革命側には傭兵部隊が存在して戦車数台も擁し、主人公ウー・ジン(満州族とか)が入手した戦車とのバトルも有り、擬似的戦争アクションを楽しめた。ヒロインが何故白人女性と思っていたが、彼女セリーナ・ジェイドは香港出身の米国人と中国人のハーフ女優らしい。
主人公の主敵を、アフリカ人とはせず、傭兵部隊の白人隊長(米国フランク・グリロ)としたのは、中国映画らしいか。主人公が不治の感染病に罹るも、研究中の抗体薬であっさりと元気になるのは、かなりのご都合主義。
監督ウー・ジン、製作総指揮ウー・ジン、脚本ウー・ジン 、クン・ドン、撮影ピーター・ゴウ、編集チュン・カーファイ、アクション監督サム・ハーグレーブ 、ウォン・ワイ・レオン。
出演
レン・フォンウー・ジン、ビッグダディフランク・グリロ、レイチェルセリーナ・ジェイド
ホーウー・ガン、イーファンチャン・ハン、ロンユー・ナン
その他の公開日:2017年10月28日(日本初公開)
角川シネマ新宿にて観賞
無類に面白いアクション映画だ。
冒頭のワンカットに見える小船、タンカー、海中を行き来する海賊との戦いからして度肝を抜かれる。
『アトミック・ブロンド』も凄かったが、考え方の豪快さではこっちに軍配が上がる。
中盤の追跡戦、後半の戦車戦も余裕でハリウッドのハイバジェット作品と比肩できる出来だ。
アクションのコーディネイトはハリウッドの人らしく、意外に柔軟な姿勢も見える。
フランク・グリロ扮する悪役もキッチリ立てている。敵も脇まで強く個性的な点は非常に良い。(決着方法は不満が多いが)
だがしかし、この作品のプロパガンダ臭はどぎつい。見掛けは爽やかだが、この上なく傲慢かつ威圧的だ。
「アフリカでは中国人はアンタッチャブル」、「アフリカの少年も中国に渡れば幸せになれる」、「アメリカは姑息」など満面の笑みで、衒いも無く自国を褒めちぎる。なんという無自覚な傲慢さよ。
アフリカの人の描写もテキトーなもので、漫画みたいに軽薄なファンキー描写の母子くらいしか人物描写も無いのだ。
「中国・中国人・人民解放軍は絶対に正しい」のが大前提の世界観であり、劇中でも「中国・中国人が被害を受ければ許さん!」と暴れるわ、果てはミサイルを撃つわでリアルに威圧的。
「あの山岳地帯でも、あの南の海でもこの理屈で…」とか考えるとホラー映画の百倍は怖い。
この作品のプロパガンダについて、ウー・ジンやジャッキー・チェンはランボーを引き合いに出したそうだが、ジョン・ランボーとレン・フォン(主人公)の間には大きな隔たりがある。
レン・フォンは一匹狼だが、根底で国家や軍と繋がっている。国家や軍の関係者は皆人格的にも立派で、汚職の影も無く、全面的な信頼関係を築いている。はっきり、国家の忠誠無比のエージェントだ。
ジョン・ランボーは違う。国家も軍も彼を受け入れず、彼の闘いは母国からは常に孤独だ。信頼できる人はトラウトマン大佐独りであり、レン・フォンが信頼できない中国人が工場の小心な管理職独りなのと対極的だ。
このワールドボックスオフィスの実績に比して、国内の公開規模は極小なのも、その辺の危険な臭いからか。
だからって、ウー・ジンはもっと宣伝の前面に出すべきだろう。良しにつけ、悪しにつけ、無視してはいけない存在には違いない。
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