「【”馬は人間の翼である”キルギスの遊牧民文化に誇りを持つ男が、キルギス文化の衰退、人間の悪性化に対し、身体を張って示した行動を描いた寓話的な作品。】」馬を放つ NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”馬は人間の翼である”キルギスの遊牧民文化に誇りを持つ男が、キルギス文化の衰退、人間の悪性化に対し、身体を張って示した行動を描いた寓話的な作品。】
■キルギスのとある村に住む、ケンタウロスと呼ばれている物静かな男。
彼はキルギスに古くから伝わる”人間と神とが友として生きていた”という伝説を信じ、夜な夜な馬を盗んでは野に放つことを繰り返していた。
村では競走馬を奪われたカラバイを中心に、馬泥棒を捕まえるために罠が仕掛けられるのだが…。
◆感想
ー 冒頭と、ラストのケンタウロスが、星空の下、両手を掲げて“解き放った馬”に嬉しそうに乗っているシーンが、印象的である。その姿からは、馬と人間の深い関係性が見えてくるようである。-
・ケンタウロスは聾の女性マリパと幼き息子を愛しながら、生きている。幸せそうである。
・だが、彼やキルギスを取り巻く環境は、文明化という名のもとに人心を揺さぶる。
ケンタウロスが、良く発行酒マクシムを飲むシャラパットと、仲良さそうに話す姿を見た隣の店の中年女はわざわざ、マリパの元に”あんたの旦那は浮気している”と言いに行く姿や、馬を競走馬として扱うケンタウロスの親戚カラバイ。
・女の言う事を信じてしまった、マリパは幼き息子と手紙を残して、家を出る。その手紙を読んで涙するケンタウロス。
ー 女の根拠のない告げ口により、彼の家は崩壊してしまったのだ。ー
・更に、伝道師たちはキルギスの伝統を無視した教えを触れ回っている・・。
ー キルギスは、多宗教の国である。だが、ケンタウロスが信じていたのは、キルギスの騎馬戦士達の守護神、カムバルアダを深く信仰しており、聾の息子にもその思いを熱く語っている。-
<そんな、変貌するキルギスの姿を肌で感じた、ケンタウロスは馬泥棒の罪で村から放逐されるが、隙を見て馬たちを野に放つ。
そして、逃げるケンタウロスは銃弾に斃れるが、シーンは時を同じくして彼の息子が橋の上で転ぶが息子は、”お父さん!”と叫ぶ。
ケンタウロスの魂が、息子に乗り移った瞬間である。
それはまた、キルギス独自の文化が父から子に継承された事も、暗喩しているのである。>