「ネコとの距離を心得ているイスタンブールの街」猫が教えてくれたこと Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
ネコとの距離を心得ているイスタンブールの街
今年も"ネコ"を主役にした商業映画がいくつも公開された。現在公開中のものでも3本もある。
最もドラマチックなのは、「ボブという名の猫 幸せのハイタッチ」である。奇跡のサクセスストーリーというだけでなく、ちょっとした音楽映画に昇華させているという点でも、よくできている。
実在するボブも出演しているが、ボブ役として複数のネコを使って、"演技させている"という意味でも映画らしい映画だ。
一方で、「劇場版 岩合光昭の世界ネコ歩き コトラ家族と世界のいいコたち」は、残念ながら映画として形になっていない。NHK-BS番組のために収録された再編集モノで、"コトラ家族"の追っかけは中途半端だし、尺の足りない部分を世界のネコでつないだだけ。
アスペクトも16対9の放送サイズだし、岩合氏の主観ナレーションが邪魔だ。そもそもNHKの映像素材は受信料で作られているはずで、受信料を払っている視聴者に対して、再び金儲けをする仕組みに納得が行かない。まあ、ネコに罪はないが。
さて前置きが長くなったが、本作「猫が教えてくれたこと」は、ドキュメンタリー作品で、おそらくいちばん"猫と人間の関係性"について真摯にとらえた、"本命"のネコ映画である。外国語映画なので、米国ではわずか1館から始まったが、あっという間に130館まで拡大し、異例のヒットとなった。
舞台はトルコのイスタンブール。とにかく街中にネコがいる。家の中や外、屋根の上、樹の上、テーブルの下、道路…。つまり"野良猫"なのだが、大都市にありがちな駆除の対象ではない。イスタンブールの人々は毎日、ネコとともに日々の生活を送っている。
本作は、映画収録の中で出逢った7匹のネコをそれぞれ主役にしたエピソードで構成されている。ネコと出逢った人々との関係性、そのネコの性格や行動パターン、家族の有無などが、余計なナレーションは省き、普段一番近くにいる人のインタビューで紹介される。
かといって、人々は決して"飼い主"ではない。彼らは野良猫なのだから。カメラワークも地上10㎝のネコ目線でイスタンブールの街を通り抜けたり、人間の目線で港町の様子や、人々の生活シーンを効果的に挟み込む。また単発的に、ドローンを使って古都の風景を空からとらえる。
人々はネコとの距離を心得ている。イスタンブールは、キリスト教とイスラム教という二大宗教の信者や歴史的な遺跡が共存している。その懐の深さが特徴的な街である。
"甘えたいとき"にしか、近寄ってこない彼らの自由を妨げることはないし、エサがほしいときにはエサをあげる。街全体がそんなことは当たり前のごとく。家ネコには家ネコなりの対応をするのはもちろんだが、野良猫には野良猫としてのもてなしと権利を認めているのだ。
(2017/11/19 /シネスイッチ銀座/シネスコ/字幕:廣川芙由美)