劇場公開日 2018年11月16日

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「【劇パン購入推奨】鈴木家の幸せを願わずにはいられない」鈴木家の嘘 uttiee56さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0【劇パン購入推奨】鈴木家の幸せを願わずにはいられない

2018年11月21日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

知的

見て良かったかと言えば、間違いなく良かった。見るべきかと言えば、絶対に見るべきだ。しかし、この映画を感動すると言っていいものか。人に勧めていいものか。点数なんか付けていいものか。
要するに、エンターテイメントとして評価していいのかどうか、自分には判断がつかない。ここでつけた点数も、とりあえず便宜上付けてみただけのものに過ぎない。

予告ではコミカルな印象を受けた本作だが、実際にはほぼほぼ鬱展開で進行したように感じた。笑える場面はあるけれど、全体のトーンが重すぎるのだ。
映画は加瀬亮演じる引きこもりのお兄さん(30)が、自室で首吊りをするショッキングなシーンから始まる。この場面のことを思うと上映終了後も息が苦しくなった。PG12でも甘すぎると思う。
その遺体を、原日出子演じるお母さん(55)が発見する。これがほんとに明るくていいお母さんなんだけど、左腕から血を流しながら気を失って倒れてしまう。お兄さんの四十九日の日にお母さんは目を覚ますが、お兄さんが自殺した日の記憶が欠落していた。
そこで、岸部一徳演じるお父さん(65)と、木竜麻生演じる妹ちゃん(21)は、お兄さんは死んでおらず、引きこもりを脱してアルゼンチンで働いているという嘘を、とっさについてしまう。この場面で、劇場では笑いがどっと起こったのだが、自分はボロボロ泣いた。嘘が、あまりにも優しすぎて。
もちろんそんな嘘がいつまでも続く訳がなく、嘘がいつ破綻するのかを観客は固唾を呑んで見守り続ける事になる訳だが、その間にも自死が遺族をどれほど苦しめるものであるかを映画は容赦なく描いていく。
最後には、鈴木さん一家の今後の幸せを願わずにはいられなかった。鈴木家を実在する家族のように観客に思わせた時点で、この映画は映画として成功していると言って差し支えないだろう。

【劇パン購入推奨】
劇パンの情報量は非常に多い。監督デビュー作の単館系映画では恒例とも言えるシナリオ全文掲載もあり、非常に読み応えがある。
劇パンに載っていた言葉が最高だったので紹介しておく。

「アイドルを起用する邦画は、カットが多く、セリフが短く、風景や音楽を多用という演出が多いです。
そんな邦画に食傷気味の人は、『鈴木家の嘘』の木竜麻生さんをどうぞ。」
−−−ひろゆき(元2ちゃんねる管理人)

劇パンによれば、この映画は監督の実体験をもとにしたものだという。ならば妹ちゃんこそが監督の分身であり、本当の主役だ。この映画が映画として成立しているのだとすれば、それはひとえに妹ちゃん役の木竜麻生の魅力によるものだろう。

(2018/12/3追記)
木竜麻生さんが第40回ヨコハマ映画祭にて最優秀新人賞を受賞されたとのこと。おめでとうございます。

uttiee56