「いい大人が自殺なんかして、みっともなくないですか?」鈴木家の嘘 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
いい大人が自殺なんかして、みっともなくないですか?
なんて、正面から向き合った映画だろう。長男が自殺してしまうところから物語は始まるのだが、その時に覚えた違和感はあとで種明かしとなる。それを知った時、母親の愛情の深さに胸を打つ。原日出子ってこんないい役者だったっけ?って思いながら貰い泣きしてしまった。
気遣いすぎる妹の壊れかけた心も、繊細に描いていた。嘘をつくことで母を思い、それを通すことでつぶれだした自分の心を、自分で立て直そうとする行動にまた涙。「菊とギロチン」の時の演技は気が張りすぎていたきらいがあったが、今回はごく自然体に心情を表現できていて、とても好感が持てた。
そして、なんといっても岸部一徳だ。何もしてこなかった父、頼りない父、そう見えていて実はこのお父さんの背中の頼りがいのあることったらなかった。寡黙は、無能でも無関心でもなかった。どうしていいかの術はなくても、何とかしたい気持ちが大きく強く、崩れかけた家族を支えていた。大森南朋も含め、なんと皆芸達者なことだろう。そしてなんといってもコウモリ。好きだなあ、ああいうの。
嘘を重ねることで転げだしていくその先の展開も、けして悪夢にはならず、シリアスすぎず、妙味の笑いも挟む。最高のハッピーエンドとは思えないが、このあたりならいいだろうというところで柔らかく収まった印象。例えれば、坂道を転げたいびつな岩が、うまく踊り場で止まったような。そしてそこには、コウモリがパタパタ飛び回っているのだろうな。
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