「“デトロイト”を忘れるな」デトロイト 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
“デトロイト”を忘れるな
1967年の“デトロイト暴動”と、その最中に起きた衝撃の事件を映画化。
キャスリン・ビグローの男勝りの演出がこれまた遺憾なく発揮された、力作実録劇!
この暴動や事件について全く知らなかったので、発端や経緯を整理してみると…
まず、“デトロイト暴動”。
警察が無許可営業の酒場を摘発、これが引き金となって社会に対する黒人たちの不満や怒りが爆発し、あちこちで暴動が発生。
それはどんどん拡大、市警だけの手には負えず、別の州警察や軍隊も投入。
警察や兵士たちは銃を構え、戦車が行き交い、暴徒による略奪や放火は収まらず、町は戦場のような光景に。
死者43名、負傷者1189名、逮捕者7000名以上に至った。
この緊迫の中、事件は起きた…。
少し離れた“アルジェ・モーテル”。
暴動を逃れ、宿泊していた黒人客たち。
その中の一人が、悪ふざけでおもちゃの銃を発砲。
これを警察や兵士たちは“本物の狙撃”と誤認。
白人警官3名がモーテルに突入し、黒人客たちの地獄の一夜が始まった…。
狙撃したのは誰だ? 銃は何処だ?
一見職務を全うしてる事実確認のように思えるが、そのやり方というのが…
暴行、脅し…不当で容赦ない尋問。
黒人客たちは怯えきっている。
白人警官たちはこれを“ゲーム”と明らかに楽しんでいる。
法の番人という権力を武器に、これはもう一方的な暴力。警察の一般人へのれっきとした犯罪行為だ。
こんな事があっていいのか。許されるのか。
実際にあったのだ。
警察である事、白人である事がそんなに偉いのか。
黒人はずっと鎖に繋がれ、苦しめ続けなければならないのか。
人種差別云々以前に、人が人として扱われない仕打ち、権力の横暴に怒りしか沸いてこない。
人種問題を扱った作品は大抵、白人に否があり、黒人が被害者と描かれる事が多いが、本作は単純にそうではない。
白人に差別主義者の警官が居る一方、良識や善意ある者も居る。
黒人の多くが被害者である一方、愚かな者も居る。
モーテルでおもちゃの銃を発砲した黒人客。
テメェの悪ふざけのせいででこんな事になったんじゃねーか!
いや、そもそも、何が原因となって起きたのか。
一個人、差別/偏見、社会全体…全てが悪い方向に複雑に絡み合い、問題を考えさせられる。
遂に最悪の事態が。
白人警官たちは黒人客を一人ずつ隣室に連れ込み、銃で殺した事にして他の黒人客たちを脅していたが、一人の白人警官が本当に一人の黒人客を射殺。
さすがにマズいと、白人警官たちは黒人客たちに、モーテルでは何も起きなかった事にして、解放。
やっと地獄の一夜が終わった。黒人各々の心に深く痛々しい傷とトラウマを残して。
結果的に殺された黒人は、3人。
…が! こんな事が一生隠し通せるものか。
戦慄の事件が明るみになり、裁判が開かれる。
ああ、やっと黒人客たちの苦しみ、殺された者の無念が晴らされる。
しかし…
この判決は、ほんの一部の白人たちにとっては最高のものだった。
例えばこれが逆、黒人警官が白人に狂気の尋問をしていたら、即死刑判決だったろう。
あの当時のデトロイトでは、クソ白人警官や白人至上主義者たちにとってはパラダイス。
黒人たちへどんな罪を犯しても、絶対的に守られる。
法は白人たちの味方。
一体誰が、何が、黒人たちを守ってくれるのか。
地獄の尋問の先に、更なる不条理/理不尽が待ち受けていた…。
当時のニュース映像も挿入しながら、徹底したリアリズムとドキュメンタリータッチ。
正直序盤こそはちと退屈だったが、いざ地獄の尋問が始まった中盤からは恐怖と緊迫感が盛り上がり、気付けばラストまで引き込まれていた。
個人的ビグロー作品BESTは『ゼロ・ダーク・サーティ』で、それは凌げなかったものの、さすがとも言えるKO級の手腕は140分超えの長丁場を飽きさせない。
話は黒人民間警備員と尋問された黒人歌手の視点を軸に展開されるが、やはり一際印象を残すのが、差別主義者の白人警官役で狂気を体現したウィル・ポールター。
彼を認識したのはおバカコメディ『なんちゃって家族』であったが、『レヴェナント』や本作などで熱演を見せ、若手実力派として着実にキャリアアップ。
“デトロイト暴動”と“アルジェ・モーテル事件”から50年の節目に製作された本作。
そう、ほんの50年前なのだ。
差別や偏見への意識が高くなった今、同じような事件が起きたらアメリカ社会を揺るがす大問題になるだろう。
が、まだまだ根強く残っているのだ。差別や偏見は。
アメリカの闇、差別や偏見に対する彼らの心の叫びは、果たして本当に届いているのだろうか。