「痛い、怖い、悲しい」デトロイト とみしゅうさんの映画レビュー(感想・評価)
痛い、怖い、悲しい
1967年、アメリカのミシガン州デトロイトで起きた暴動。
もう50年? まだ50年?
半世紀前に起きた事件は、しかし今もなお過去のものとはなっていない。
Black Lives Matterというキーワードは、人種問題に疎い僕ですら知っている。
本作のメインで描かれる「アルシェ・モーテル事件」は、ただただ恐ろしいの一言に尽きる。
もし自分があの場所にいたら、はたして生き残ることはできただろうか?
仮に命が助かったとしても、自分の魂は回復不能なほどに傷ついてしまったのではないか。
映画と分かって観ているのに、ずっと絶望的な気分でいた。
「ああ、もうこれはダメだ」と。
世界から見放された気分。人としての尊厳が全て奪われた気分。
なぜ、こんなことになったのだろう。
なぜ、こんなことをしなくてはいけないのか。
それが人の性(さが)なのか、運命なのか。
ジョン・ボイエガ演じるディスミュークスは、てっきり警官だと思っていたのだが、実際には警備員だった。
のちに彼が容疑者として扱われる展開にも、かなりの恐怖を感じた。
黒人であるというだけで、ここまで不当な扱いを受け続けることになるのか。
50年経って、アメリカは変わったのだろうか。
白人優先主義が、またしても復活しているのではないだろうか。
どこまで救いのない展開は、本当に容赦がない。
ラストシーンであの人物が見せた表情は、どういう意味だったのだろう。
あまりにも過酷な現実から逃れるために、おそらく原始的な宗教が生まれたのだろう。
僕らが生きている「いま」も、こうした悲劇は続いている。
そのことを決して忘れてはいけない。