デトロイト : 映画評論・批評
2018年1月16日更新
2018年1月26日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー
米国の黒歴史が〈私の恐怖〉に変わる極限体験
実際に起きた出来事を題材にし、極限の状況をサスペンスフルな演出で再現して、まるで現場に居合わせているかのような感覚を観客にもたらしてきたキャスリン・ビグロー監督。「ハート・ロッカー」ではイラク戦争下における米軍爆弾処理兵たちの活動を、「ゼロ・ダーク・サーティ」ではCIA分析官によるオサマ・ビンラディン追跡と米軍急襲部隊によるビンラディン殺害作戦を描いた彼女が、最新作「デトロイト」で取り上げたのは、1967年のデトロイト暴動のさなかに起きたアルジェ・モーテル事件。体感度の点では、先に挙げた近年のビグロー監督作2本を超えている。
白人優位の社会、特に横暴な警察に対する黒人たちの不満が爆発して暴動が発生し、街は騒乱状態に。そんな中、ある黒人青年がモーテルの窓からオモチャの銃を鳴らしたことで、狙撃されたと勘違いした白人警官たちが建物に突入。逃げようとしたその青年を射殺し、居合わせた若者たち(黒人男性6人と白人女性2人)に対して暴力的な尋問をエスカレートさせてゆく。
「ハート・ロッカー」「ゼロ・ダーク・サーティ」に続きビグローと三度のタッグとなるマーク・ボールによる脚本は、宿泊客の1人で新進ボーカルグループ「ザ・ドラマティックス」のリードシンガーだったラリー(アルジー・スミス)、差別主義者の白人警官クラウス(ウィル・ポールターが鬼気迫る熱演!)、近所から様子を見に来た民間警備員ディスミュークス(ジョン・ボヤーガ)という主に3者の視点で事件を再現するが、とりわけ強烈に伝わってくるのはラリーたち宿泊客が尋問で味わう恐怖だ。固定カメラと手持ちカメラの映像を組み合わせて当事者たちの心理状態を浮かび上がらせるビグロー監督の手法により、観客もまた異様な緊迫感に満ちた戦慄の一夜に放り込まれてしまう。
先述の2作品が軍人やCIA職員といった特殊な職業のキャラクターが自らの意志で対峙する極限状況を描いたのとは異なり、「デトロイト」では暴動に加わっていない普通の市民が死と隣り合わせの危険に巻き込まれる点も見逃せない。民族対立や差別主義の問題に収斂せず、誰の身にも降りかかる可能性がある理不尽な暴力がスクリーンに現出するからこそ、その恐怖は観る者に内在化するのだ。
(高森郁哉)