劇場公開日 2018年1月20日

  • 予告編を見る

「自分が老いて死ぬ様子を見せることは、子らへの最後のプレゼント」ライオンは今夜死ぬ きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0自分が老いて死ぬ様子を見せることは、子らへの最後のプレゼント

2024年10月14日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

YouTubeを見ていたら
衰えてヨボヨボになったライオンが、自分で大地に穴を掘って、その穴に背中から倒れ落ちる映像があった。

老人は自分の死を予感し、
また先に死んだ恋人を乞い慕う。
子役たちはその老人の回りで彼にじゃれ付きながら「老いや死について」想像を巡らす。

荒い粒子のフイルムで撮った、過ぎし日のアルバムのような映画。
とても良かった。

子役の年長の男の子=そばかすの金髪のジュールが、自分の母親の再婚に悩みながら成長していく若いライオンの様を演じる。
初めて剃刀でヒゲをあたったこの少年も、このようにして成長し、苦労していつか老い、そして、出演していた子どもたちだって最後の死に向かって、彼らも今を生きているのだと、
生の讃歌を魅せてくれるそういう映画ではなかったか。

・・・・・・・・・・・・・

僕は「コンパクトシティ」に賛成だ。
「幼稚園や小学校」と「老人ホーム」を横割り行政で一つの建物にしたいのだ。
給食も、運動会も、一緒で良いではないか。
共に成長を喜び、共に死別を悲しめば良いではないか。

【人の誕生】
かつてはふすまの向こうでお母さんの呻き声を聞き、突然の産声に驚き、弟や妹の誕生を自宅で体感出来ていた子どもたち。

そして
【臨終】
同居するおじいちゃん、おばあちゃんが介護を受けながら老衰していって、子や孫たちの囲む中、お家で大切な人の終わりを体で触れて知っていた子どもたち。

ところが今ではどうだ?
赤ちゃんは病院からもらってくる品物だし、
おじいちゃんはいつの間にか病院へ行って、それっきりどこかへ消える。

生への手応えが、核家族化で無くなってしまった残念は、非常に大きいと思うな。

映画は
コートダジュールの撮影現場からドロップアウトした老俳優が、
思い出の地を徘徊するストーリーだ。
そして廃墟で遊ぶ子どもたちが、その老俳優をキャストに据えて、ロケの撮影ごっこをするという作りだ。

脚本作りは難しい。
人生も、そしてもちろん演じなければならない自身の終幕も、
台本通りにはなかなか行かないという もどかしさ。

だから、この映画の進行は、昼寝や休憩や無言のシーンがたくさん挟まれており、ゆっくりゆっくりの展開なものだから、観ているこちらもじれったくもあるのだけれど、老いを生きるということは、こんなことなのかも知れない。

演ってみなければわからないのだ。

きりん