「大きな可能性を感じる失敗作」セブン・シスターズ うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)
大きな可能性を感じる失敗作
これはいろいろと残念な作品。もっと本気で取り組んでいたらSF映画の金字塔にもなり得たというのは大げさだろうか?
それでも、ノオミ・ラパスの熱演には賞賛が与えられるべきだし、彼女の頑張りは相変わらず。パフォーマンスに見合うだけのギャラがもらえているんだろうか、なんて余計な心配までしてしまう。
何しろ、7人が1人に成りすますなんて発想がぶっ飛んでる。映画の中で彼女たちは生き残るための手段としてやむを得ずやっている。大前提にあるのは、おそらく映画製作者の「やってみたいことリスト」とでもいうべきアイデア帳からだろう。一人二役を、もっと面白くアレンジできないか?原題のWhat Happened to Mondayこのタイトルを見れば、発想の出発点がここにあることがうかがえる。双子が一人の人間に成りすます。。。3人に増やしたらどうだろう。。。いっそ7人で一週間演じ分けたら、面白くないか?日曜日には教会に行く真面目な性格で、土曜日には遊び人、月曜日は仕事人間。コメディ向きの実に魅力的なプロットだ。SFをベースにしたスリラー映画にするべきじゃなかっただろう。
それでも映画の出来は悪くなかった。がしかし、あえて失敗している部分を取り上げたい。第一に監督がオマージュを捧げる映画を詰め込み過ぎで、無駄に時間を浪費しているし、もっと他のことに予算をつぎ込めば良かった。メインヴィジュアルにも採用されているビルを飛び移るアクションは、「ブレードランナー」からだし、網膜スキャンをくりぬいた目玉で突破するあたりは「マイノリティ・レポート」だろう。悪い予感というセリフは「スターウォーズ」から。他にも切りがないほどイースターエッグが仕掛けてある。
監督の遊び心を許せるのはせいぜい2、3回。過剰に仕掛けてあっても、予算と時間の浪費だろう。前例のないスタントとか、目を奪われるようなド迫力のシークエンスは映画に無くてはならないものだ。だからと言って、一番大事なプロットが傷ついていいわけがない。前出の眼球のくだりは、管理システムを好き勝手にコントロールできる敵側からすれば本来は必要のないプロセスで、ドアを開ける手段は他にいくらでもあったはずだ。
アクションが無くなれば、観客はあくびをしてしまうとでも思っているのか、無理くり警察に追われるハラハラドキドキを作り出している印象が強い。こちら側に7人の分身がいるのだから、相手をいいように翻弄できたはずだ。どうしてその発想でアクションを組み立てられなかったのだろう。
ストーリーも後付けくさい、悪く言えばご都合主義のひと言だろう。プロットが面白いだけに実に残念だ。命がけで1人の人物に成りすましている姉妹が、いかなる動機があっても、それぞれに秘密を持つことなど不自然だ。他の姉妹に比べて男性経験がないとか、こっそり彼氏を作っていたりとか、職場で連絡を絶つなど、その都度製作者の都合でおかしな設定がくっついてくる。それ以前に。モニタリング出来るのなら、外出中は常にそうしておけば月曜日だけが消息を絶つことすら起きなかったであろう。見せ場を作り出すことも大事だが、もっとディテールを磨く作業に時間を費やすべきだったろう。
何よりも、一番大切なこと。登場人物の「誰」に感情移入すればよかったのか。自己犠牲を哀しく、尊いものにするためには、7人の姉妹を均等に描くのではなく、誰か1人の主人公に付随する、6人の脇役たちという描き方が相応しかったはずだ。この映画では、命を落とすどころか、自分同士が殺し合うシーンすらある。観客はどちらの味方になればいいのか。決着した時、喜ぶべきか、悲しむべきか?きちんと描けていない。
この映画、製作陣には注目していたい。いずれ映画史を塗り替えるほどの傑作を生み出すかもしれない可能性を感じたからだ。でも、残念ながら本作は上手く出来上がったとは言えないだろう。
2018.10.2