劇場公開日 2018年9月1日

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「恋愛の非社会性を克明に描写した傑作」寝ても覚めても hatakeyamadさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0恋愛の非社会性を克明に描写した傑作

2021年10月11日
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怖い

興奮

知的

観たことのない種類の映画である。
まず冒頭の始まりのところ、ラブストーリーだと思い見始めると突然80sのプログレッシブロックのようなシンセが流れはじめて"なんだこれは?"となる。不気味だが画面にとてもマッチしている。
素朴なふんわりした可愛い感じの服装の女の子が歩いている。それを遠巻きに長回しで撮っている。足早で何か焦っているようだ。
場面は変わり写真展?ひとつの写真の前で立ち止まる。女の子の顔が映る。写真に見入っている。鼻歌が聞こえる。男が後ろから現れて消える。女の子が振り返る。男を目で追う。男はフラフラと歩いて画面から消える。
場面が変わり、女の子はパンフレットを手に取る。さっきの男が通り過ぎる。女の子は待ち伏せしていたのだ。エスカレーターに乗った男を女の子は追う。外に場面は変わり、階段を登る男を追う女の子。階段の上の広場で少年たちが爆竹を鳴らす。驚いて逃げ出す少年たち、爆竹の音に振り返る男。待ち望んでいたようにそれを見つめる女の子。

不思議な映画である。
この冒頭だけで私の心は完全にこの作品に取り憑かれてしまった。何かおかしなことが持ち上がってるとこの時点で理解した。これはただのラブストーリーではなく、危険な何かである。それはたぶん社会の規範から外れるような何かである。ただそれがなにかを説明することはできない。

現代人の我々にとって恋愛とは何か、私はこの映画を観て考えずにはいられないのである。それは友達を早産させ、1人の男性の人生を一変させてしまう。でもそれだけではない。この映画ではそれを明確に説明していない。気配を感じるだけだ。その気配に私は戦慄したのである。

この気配というのは、いわば芸術そのものなのかもしれない。朝子と良平の関係は芸術と社会の関係のようにも思われる。恋愛の爆発は一種の芸術である。非社会的な行動なのだ。それと同時にとても儚く尊く美しい。彼らの個人的な恋愛を作品の評価とごっちゃにして語る方が多いが、愚かとしかいいようがありません。というか、むしろこのすごい作品のエネルギーに2人が飲み込まれてしまったとしか思えず、逆にそこまで本気だったのか!と私は嬉しくなる。彼らはマジだったのだ。

最後に朝子はあの海で何を見たのだろうか。
原作には麦は宇宙人という裏設定がある。もしかしたらUFOを見たのか。ただそれを画面に映さないのが監督の高い知性と芸術性のなせる技か。未確認生物であることを比喩として使ってもっと深いその"何か"を感じさせることに成功している。大傑作である。

hatakeyamad