劇場公開日 2018年9月1日

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「いつもの日本映画じゃない」寝ても覚めても 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5いつもの日本映画じゃない

2020年7月11日
PCから投稿

濱口竜介監督の映画をはじめて見た。びっくり。面白い。うまい。
てっきりよくある荒井晴彦系のエレジーな日本映画なんだろうと思っていた。ぜんぜんちがう。昭和もピンクもない、日本映画の系譜にいない映画監督である。

ポンジュノが誉めたことが納得できる。
かんがみれば、世界的栄誉に浴するポンジュノが、たわむれに日本の映画監督を誉めるはずがない。そんな彼が誉めた映画が、よくある日本映画なはずもない。

撮影がうまい。回さない。Vividな単焦点。表情がわかる。唐田えりかを真正面から捉えると、ハッとなる。蒼白といえるほど白い猫顔で、ジンタを抱いていると、どっちが猫か解らなかった。
景観も構図がキマっていて、ドキュメンタリーの手腕もあった。地震からの帰宅や、東北の市場に臨場を感じた。歩道橋の左官の描写なんか、すごく巧いと思った。

原作を知らないが、男の間を揺れ動く女心ではなく、幻想に思える。
麦は夢で、亮平は現実──の気配が、愛憎劇を幻想譚へ変換していた、ことに加えて、主人公のふたり(三人)だけが棒演技で、他の出演者はリアル系演技をしている。それが男女間の愛憎をきれいに払拭していた。監督は、ものすごく頭がいいと思った。

唐田えりかが、まるで本当に恋しているような気配をまとっていた。
恋に落ちる話であり、それを追及する演出でもある。
妙な空気になるであろうし、唐田えりかは恋に落ちるであろうし、東出昌大は魔がさすであろうし──それらが腑に落ちる、そんな映画だった。

芸能人が不倫すると人々は怒る。これは、おそらく、人々は不倫がいいことか、わるいことか、知っている──という意味ではなかろうか。だが人々は、かれらの不倫が、自分とは何の関係もないことを意外に知らない。
有名税とは、有名人自身が、なるほどこれが有名税か、と実感するものであって、一般庶民が徴収するものではない──と思う。
ふたりが厖大で執念深い一言居士たちに、寄ってたかって責められるのは、気の毒だ。
Hang in there!

ちなみにわたしは、わたしの地元の方言を映画でもテレビでも、いちども聞いたことがない。そんなわたしは、関西圏のにんげんが、関東圏の俳優の関西弁にけちをつけるたび「うるせえよ」と思う。

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津次郎