劇場公開日 2018年3月2日

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「SDGs=誰にとっての持続可能な世界なんだろう・・。 一寸法師のような庶民をひねり潰す巨悪の力について考えます。」ダウンサイズ きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 SDGs=誰にとっての持続可能な世界なんだろう・・。 一寸法師のような庶民をひねり潰す巨悪の力について考えます。

2025年12月16日
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鑑賞方法:VOD

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途中、この映画はかなり間延びして退屈になりますが、その先に新しい展開がちゃんと用意されていますから、諦めずに終わりまでご鑑賞ください。

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一見、出だしから「稚拙な思いつきっぽいSFコメディ映画」なのだけれど、その“粗いモザイク画面”を、少し離れて眺めて見てみる。
と、と、気づくものがある。
目を薄めて注意深くこの作品のモザイクを透かして見てみれば ―

①髪の毛を剃り落として、
②金歯を抜いてから、
③全裸でオーブンに入れるって流れ。

・・これはまぎれもなくガス室。
「最終解決だ」とあの人が称んだ所業。
―「ガス室から焼却炉」を彷彿とさせるベルトコンベア。
この 3つのこのパワー・ワードは
そこですよね?

そこでこそおまいらは幸せになれるし、社会に迷惑はかけない立派な少国民になれるぞ
って、これはお上からのSDGsの勧誘なんですよね?

つまり、
“B級のSF映画” に見せかけてはいますが、本作は
《楽して儲けたい弱き国民性》と、
《中流階級や低層を目ざわりに思う富裕層》、
《国民操縦に長けた国家の悪魔性》。そして
《そのどちらにも属せなかった脱落者たちの》物語。
このあられもない姿を晒した告発映画だったと思います。

映画の幕開けはこのパワーワードで、総毛立ってのスタートだったのでした。

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近未来の食糧難や環境問題を、このように歪んだ形で告発する映画といえば
・「ソイレント・グリーン」(主演チャールトン・ヘストン)や
・「PLAN75」(倍賞千恵子)が思い出されるのだが、

“検体” =つまり国民を、生かさず殺さず、ミニマムに押し潰して、こういう形で世の中から厄介払いにして亡き者にしようとする生体実験の、本作のグロテスクさよ。
これは、ヤバいとしかいい様がない。
食肉加工工場と人肉の縮小工場がオーバーラップされています。

それ、気付かずに面白おかしく本作を鑑賞してしまったのなら、本作のキモの素通りで、もったいないのではないだろうか。

他の作品に見られるアレクサンダー・ペイン監督の繊細なる人間愛や、土臭い脚本力や、骨太の社会派作品を観てきて、
今回、マット・デイモンを起用した流れを勘案すれば、本作は単なるギャグ映画ではないと見るのが正しいだろう。

誰しもが幸せになりたくて、宝くじを買ってみたりする。そして結婚生活やローンの辛さや家庭の維持の困難さから”インスタントな桃源郷“を夢見たりもする。しかし、
「問題」はあっちの世界(満州国とか南米とか)に行ってからの生活ではなくて、あっちの世界に行かせようとするデモーニッシュな力なのではないかと思う。内なる誘惑の囁きと、そこにつけ込む外からの力。

ユダヤ人協会は本作の『パワー・ワード』をどう見たであろうか?
あのシーンをスルーするはずは無いし。

・・

キャスティングとしては、
終始覚めた目で、マット・デイモンを批判してからかう「上階に住むセレブ」も、「クリッパー船の船長」も、
いい味を出して物語全体を冷ややかに解説してくれる。
あの二人の存在が映画をシメていてくれる。

マット・デイモンを脚本作成に加えていればもう少し完成度は上がっただろうに、そこは残念。

きりん
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