「幸せも問題も大なり小なり」ダウンサイズ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
幸せも問題も大なり小なり
ユーモアとペーソス、良質の人間ドラマに手腕を奮うアレクサンダー・ペインが何とSFに初挑戦。
と言っても、この監督らしい人間ドラマがメインのユニークな作品に。
ちょっとだけ先の近未来。
人口増加、資源、消費、エネルギーなどあらゆる問題の解決策として、あっと驚く方法が。
ノルウェーの科学者が成功させた、人を縮小させる技術“ダウンサイズ”だった…!
人口増加に歯止めなんて利かないし、消費はそれに比例。今から浪費し続けた地球上の資源やエネルギーが戻る訳がない。
ならば、こちらが小さくなる。小さくなれば、全てが抑えられる。
劇中では、1/14のサイズに縮小。
そうすれば、飲食も1/14で済む。
摂取だけじゃなく排出、二酸化炭素やゴミの量も。
金銭面でも恩恵を受け、高価なものも格安で買える。
何より、土地。土地の問題に困らない。だって、ミニチュアサイズの家に住めばいいのだから。ミニチュアサイズならば夢のどんな豪邸でも!
さらにさらに、財産の価値が遥かに上がる! 一生遊んで暮らせるほど。
これら小さくなっての生活は日本じゃ『ドラえもん』のスモールライトでお馴染みで、考えただけで楽しい。
楽しさと、夢のようなリッチ生活で、全てが薔薇色!
…でも、日本にはこんな諺がある。
隣の芝生は青く見える。
主人公は医療作業療法士のポール。
生活はなかなか厳しい。
そこで、妻とダウンサイズを決意。
ところが!妻がドタキャン。時すでに遅く、ポールだけ小さくなって…。
確かに生活はちょっと裕福になったかもしれないが、ポツンと置き去りにされたかのように寂しい独り身に。
当然仕事は辞め、身内はおらず、小さくなったこの世界にまだ友人も居ない。
一度小さくなれば、二度と元に戻れない。
薔薇色と思ったダウンサイズの選択は、人生最大の失敗だったのか…?
小さくなって始めて分かる、小さくなっての問題。
例えば、全てが1/14で済む人々は、従来のサイズの人々と同等の権利を与えられるべきなのか。
平等不平等、差別や偏見の問題が生じる。
小さくなれば、何かの箱に入るなどして、不法移民などが簡単に。
人間や地球の未来の為の技術が違法の手段に。
小さくなれば、誰もがリッチになれるとは限らない。
元々リッチだった人はよりリッチに、それなりの人はそれなりに、無一文の人は無一文…。
やはりこの世界にもある裕福と貧困の格差社会。
財産で仕事もせず遊び呆けて暮らしてる者も居れば、生活の為に仕事してる者も。
印象的なのは、裕福なのはほぼ白人で、貧困なのはほぼ非白人。
貧困者が暮らすのは、街外れの集合住宅のようなコミュニティー。
洒落のようだが、現実社会の縮図。
小さくなったって何も変わらない。
現実社会と変わらぬ冴えないダウンサイズ生活を送るポール。
しかし、そんな彼に、新たな出会い、新たな生き方、自分自身を見つめ直す出来事が…。
ポール役マット・デイモンの、いい意味で平凡で冴えない佇まいが絶妙。
見てて途中から、本当にこの人、スター俳優のマット・デイモンだよね?…と思ってしまったほど。(勿論、いい意味で)
クリストフ・ヴァルツ、ウド・キアらは小さくなってもアクの強さは変わらず。
ひと際存在感放つのは、ポールと親しくなるベトナム人女性役のホン・チャウ。
元レジスタンスでもあり、今は豪邸の掃除屋、性格もなかなか破天荒。
笑わせ、人種の問題も刷り込ませ、印象も見せ場もさらう。
小さくなるまでの説明や注意点、実際のプロセスなど、何だかまるで大きな手術を受けるかのよう。
ユーモアとペーソスは勿論。
この現実世界への風刺や問題提起も。
しかし、もうちょっと話に捻りや何か一味あるのかと思ったら、そうでもなく…。
秀逸なのは小さくなるというアイデアだけで、終盤の展開など、この作品は一体どういう方向へ進みたいのだろうと思ってしまった。
メッセージ性もちょっと説教臭い。
でも、アレクサンダー・ペインならではのオリジナリティーある作品である事は確か。
もし自分なら、あなたなら、ダウンサイズしたいか…?
小さくなっての幸せ、新しい人生を見出だせるか…?
あくまで映画だが、小さくなる前に従来のサイズで今直面している問題を解決出来ないのかとも考えさせられる。
幸せも問題も、大なり小なり。