「”砂の器”リスペクトのような共通点を持つ、見応えある作品」祈りの幕が下りる時 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
”砂の器”リスペクトのような共通点を持つ、見応えある作品
当然、映画ファンなら、"ああ、「砂の器」ね。"という感想になるはず。原作が松本清張作品に似ているだけでなく、映画化に際しても、野村芳太郎監督の名作「砂の器」(1974)をモチーフにしたと思われるシーンもあって、なおさら東野圭吾版「砂の器」といった趣きになっている。
その類似点は、例えば、父と息子(本作は娘)が罪なき罪のために、身を隠して放浪の旅に出るというところ。また、いまから数十年前の過去の因縁が、現代の事件につながっている点や、犯人が偽名や詐称による成り代わりになっているところ。さらにはエンディングが舞台公演の場で迎えることなど・・・その引用は挙げればキリがない。
しかしそれは、この作品の評価を下げるものではない。むしろ、「砂の器」に負けず劣らずの見ごたえになっているところが凄い。ズッシリきて、ホロリとさせる。 オープニングにテロップ処理でストーリーを端折っているものの、2時間という映画の尺に、壮大な展開をきれいに詰め込んでいる。
日本大震災の傷跡や原発作業員という設定を使ったりするのは現代的。さらに背景や人間関係、犯罪の動機や手法などはオリジナルで、"新参者"シリーズとしての加賀恭一郎の過去とクロスオーバーさせている。よくぞこれだけの伏線を引きまくった!と感心する。考え方によっては東野圭吾による松本清張へのリスペクトなのかも。
監督は、「半沢直樹」、「下町ロケット」などのドラマを手がけたTBS所属の福澤克雄。福澤氏の意外すぎるプロフィールは、あの福沢諭吉の玄孫という事実だ。 映画のメガホンは中居正広主演だった「私は貝になりたい」(2008)だけだが、ドラマ版「新参者」がTBS制作で、福澤監督のTBS所属演出家ということだからだろう。
本作はなんといっても、脇役や端役に至るまでキャスティングが豪華すぎる。そんな中でヒロインである松嶋菜々子がやはり"華"である。
ちなみに同じく今週公開のホラー映画「ザ・リング リバース」が上映中。20周年となった「リング」の第1作(1998)が松嶋菜々子の初主演作だったことを考えると感慨深い(←いまだに美しいことが)。
またドラマ版に出演したことがある、杏と香川照之がエンドロールのサービスカットでカメオ出演しているので、お見逃しなく。
"新参者"は、ドラマ版からはじまって、劇場版やスピンオフなどで映像化されてきたシリーズだが、今回が"完結編"だという。 それは日本橋署に赴任した"加賀恭一郎"のエピソードを"新参者"とするからだろう。
しかし"日本橋"に赴任する前の話もあるし、加賀本人が死んでしまったわけでもない。阿部寛主演のドル箱シリーズとすれば、今後も周りのオトナがほっとかないような気がする。
(2018/1/28 /TOHOシネマズ上野/ビスタ)