「.」ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー 瀬雨伊府 琴さんの映画レビュー(感想・評価)
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自宅にて鑑賞。カノン(正史)扱いの劇場公開版としてシリーズ外伝二作目で、前の外伝『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー('16)』と同じく、シリーズお約束のオープニングであるテキストスクロールは無く、紙芝居的なテキスト表示で始まる。テンポ良く展開する前半に較べ、詰込み感が半端無い後半はややだれ気味で、バランスに欠く。登場人物がむやみに多く、各キャラクターの扱いが煩雑で、ついてはご都合主義的に写る。シリーズを知らなくても愉しめそうだが、知っていればこその不満も出そうな出来。続きを観たいかと云えば微妙。60/100点。
・原題はファーストネーム無しの"Solo: A Star Wars Story"。フォースの言及が全く無く、ジェダイも登場しないし、“スカイウォーカー”一族や血を引く者が誰も登場しない初のシリーズ実写作品となった。“ハン・ソロ”と云えば、『旧三部作 エピソードⅣ('77)・Ⅴ('80)・Ⅵ('83)』ではお馴染みの犯罪組織“ハット・カルテル”の首領“ジャバ・ザ・ハット”だが、本編内で全く言及されない。これは続篇以降に含みを持たせたかったのではなかろうか。
・シリーズのファンへ向け、"I know"やトレーラーでは" I've got a good feeling about this"等、セルフパロディ化したシリーズお約束に反目した科白があり、“C-3PO”お馴染みの確率を持ち出すP.ウォーラー=ブリッジが声を当てた“L3-37”の科白も登場する。ミレニアム・ファルコンのゲット、J.スオタモの“チューバッカ”との出逢い、更には距離か時間か長らく議論されていたケッセル・ランにおける「12パーセク」の問題を解消する展開も用意されいる。何よりラスト間近に顔を出すR.パークの“モール”卿が最大のファンサービスであり、正式なシリーズ作である事を意識させる。
・全篇、往年の西部劇を意識した作りである。三つ巴による列車強盗の前半は云うに及ばず、後半は更にその傾向が顕著で、流れ者が地元を治める顔役の女を味方に附け、敵対していたネイティブの協力も得て、一騎打ちの後、周辺の引き止めを振り切り、去り行くと云うウエスタン物の王道中の王道をトレスする。
・本編は"Project:Red Cup"の名で、製作が進められた──これは米国のパーティー等でよく用いられる赤いカップのメーカー名"solo"からきている。本作の一般公開日は'18年5月25日で、'77年の初作『スター・ウォーズ(エピソードⅣ)』の同月同日に揃えられた。
・当初、J.トランクが監督を務める予定だったが、解雇された。その後、P.ロードとC.ミラーが監督に起用され、'17年1月30日にファーストカットを、2月20日には本格化され、5月からはカナリア諸島に場所を移し撮影は進められたが、ラッシュを観たルーカス・フィルム社長K.ケネディと複数の関係者は、その出来に首を傾げたらしく、現場でも脚本を無視しアドリブを活かした演出法にも不信感を抱いた挙句、終盤に差し掛かった6月20日、二人は監督を解雇された(降板した二人の監督の名は、他の二人と共に“(共同)製作総指揮”としてクレジットされている)。監督側も細部に迄、口を挟んでくる上層部に苛立ちを募らせていたらしく、喧嘩別れに近い決別となった模様だ。後任としてJ.ジョンストンも候補に挙げられたが、優等生と云われるR.ハワードが後を引き継ぎ、殆ど準備をする間も無く、6月26日に現場に合流し、85%以上を再撮(尻拭い)し、漸く完成(R.ハワードは再撮分も含め、全篇の70%以上を新たに撮影したと云う)に漕ぎ着けた。この兼ね合いで一部のキャストやスタッフは入換ざるをえなくなってしまった。
・監督交代のゴダゴダの余波として、“ドライデン・ヴォス”は当初M.K.ウィリアムズが半獣半人の姿で演じていたが、ゴダゴダが続く中、『The Red Sea Diving Resort('19予定)』の"Kabede Bimro"役の撮影でアフリカへ行ってしまい、急遽、P.ベタニーが代役となった。結果、リデザインする余裕も無く、ポストプロダクションン等、スケジュールの都合から、キャラクターに大幅なCGIを施す余裕も無くなってしまった。このキャラクターが他の登場人物に較べ、中途半端で没個性な上、少し浮いた様に映ってしまう一因はここにあると云える。
・ラスト近くの“ダース・モール”は当初のシナリオには無く、物語を締める目玉として、何か物足りなさを感じていたR.ハワードが登場を推した。演者を19年振りとなるオリジナルのR.パークとしたのもR.ハワードである。亦、監督は妻のシェリル・ハワードをチョイ役かカメオでも出演させたく、実際に撮影も行ったが、最終的には彼女の出演シーンをカットした。
・主役の“ハン・ソロ”にはA,エルゴート、M.テラー、D,フランコ、S.イーストウッド、T.エガートン、J.レイナー等、様々な候補が挙がっていた。そんな中、“ベケット”を演じたW.ハレルソンは、C.ベールを推薦した。
・劇中、E.クラークの“キーラ”が体得している武道“テラス・カシ(Teräs Käsi)”を披露するシーンがある。格闘技“テラス・カシ”は『スター・ウォーズ/最後のジェダイ('17)』においても“エリート・プレトリアンガード”達も訓練を受けていると云う設定があり、S.ペリーのスピンオフ小説『スター・ウォーズ シャドウズ・オブ・ジ・エンパイア<帝国の影>('96)』に登場する犯罪組織“ブラック・サン”の首領“シゾール”も習得しているとされている。'98年にはプレイステーション用対戦格闘ゲーム『スター・ウォーズ マスターズ・オブ・テラス・カシ』としてタイトルにも冠された。
・本作オリジナルで登場する如何にも今風の意識が高い系女性ロボット“L3-37”のネーミングは、英米語圏のネットで用いられるアルファベットの表記法で、リートスピーク"leetspeak"やハッカー語とも呼ばれる"leet"に由来する。これは"elite"が"eleet"に変化し、頭の"e"を省いた"leet"を、その見た目から“l337”と綴った我国で云う顔文字の様な俗語表記である。
・オープニング時、シリーズ中初めて動画の中で(動画を背景に)タイトルコールがなされた。亦、"Lucasfilm"直下に"Keeper of the Holocron"のクレジットが見られる。ホロクロンとはシリーズ中他作にも登場するホログラムを保存する情報記録装置の事で、そこにはシリーズのカノン(正史)や銀河系の地図等が保管されているとされている。
・最後のスタッフロール中、"In Loving Memory of ALLISON SHEARMUR"とA.シェアマーへの献辞がある。本作の(共同)製作である彼女は、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー('16)』でも(共同)製作を務めたが、本作公開後の'18年1月19日に肺がんの為、54歳で亡くなった。
・公開前、汚れた白地に役名がコンデンス系のフォントで抜かれた中に単色を強調した1シーンを表記した四種のポスターは、フランスでソニーの為にHachim Bahous氏がデザインしたCDジャケットに酷似しているとの指摘があった。亦、E.ケリーマンの“エンフィス・ネスト”が被るマスクはデザインに一年以上が費やされたと云うが、我国のアニメ『機動警察パトレイバー』シリーズ('88~'90・'92・'93・'01・'16)に登場する“イングラム AV-98”や同じくアニメ『超時空要塞マクロス』シリーズ('82~'83・'94~'95・'97・'12)の“VF-1 バルキリー”によく似ているとの見聞も多い。P.ベタニーの“ドライデン・ヴォス”の乗るスター・ヨット“ファースト・ライト”は、雰囲気や大まかなフォルムから『メッセージ('16)』に登場する“ヘプタポッド”の乗る艦を想起した。
・先述の監督やスタッフ、キャスト交代のゴダゴダに伴い、製作費は2億5,000万ドル越えと大幅に膨らんだ挙句、批評家や一部のファンからは悪評を喰らい、全米公開時には興行収入が日に日に落ち始め、シリーズ初の赤字に陥る惧れすらあると云う。一部では全世界興行収入は最大でもおよそ4億ドル以内に留まるだろうと予想されており、宣伝費やその他諸々の諸経費を加味すると、その赤字額は5,000万ドルとも8,000万ドルとも噂されている。
・鑑賞日:2018年11月4日(日)