「映画は自分で観なければ本当に判りません!!」累 かさね Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
映画は自分で観なければ本当に判りません!!
あ~驚いた!まんまとやられました。本作は私の予想を完全に裏切ってくれました!!
私は普段なるべく映画を白紙の状態で観たいので、前情報は極力仕入れない主義。だがこの作品は私の観る予定の作品リストに入っていたが、時間の関係で観る事に迷いが出たので、みんなのレビューを読み、良い作品なら観ようと考えた。
すると大方の方々が、劇中の丹沢ニナと言う女優と、その彼女に成りすまそうとする累を演じる土累屋と芳根の迫真の芝居バトルが見物。お二人の芝居の巧さに感動した、或いは2人の女の心の変化の描写が見物等、好意的なレビューが並んでいたので急遽予定を変更して本作を観た。
しかし、観賞後の私の感想は殆どの方が書いていたものとは全く違う印象になった。
確かにダブルヒロインそれぞれを演じた、土屋さんも芳根さんも、顔と内面が同一の場合と、入れ替わった状態を巧みに演じ分けている点は非常に巧いので、良かったし、2人の芝居を楽しめた。
そして、私がこの映画で最も人間の心の闇、最大の恐怖を感じたのはニナでもなければ累でもなく、ニナのマネージャーである羽生田の異常性に思わず息をのんだ。
ニナと累は口紅とキスと言う過程が無ければ、何も変化する事は無い。そして当然、そのプロセスを経て、肉体と心が同一人物でなくなり、入れ替わる事に因って変化していく心の変化であるのだから、嫉妬や憎しみ等、有る意味変身する事が無ければ、起きる事のない心の反応でも有り、この2人の間に有る心の闇などは、確かに深い闇ではないのだろう。
だがこの物語の本当の恐怖は、羽生田の昼の顔と、夜一人帰宅した時の顔に違いが有る怖さである。しかも彼は何の小道具も必要なければ、キスも不要なのだ。
いや、そればかりか、昼も夜もきっと彼の心の中には何の変化も無いのかも知れない怖さ。
只、彼の心を今も支配し、離す事の無い大女優の亡霊が彼の心に棲み続け、彼女の再臨を彷彿させる女優を創作する為に、ニナと累の2人の若い女性の人生を、素知らぬ顔で支配し思うままに巧みに操る彼。その亡霊を愛する執着心、根深く本当に怖い心の闇だった。
その心の闇と共に生き続けている、彼の心が表面的には何も見えない処が更に恐怖でしょ?
浅野忠信は、面倒見の良い気遣い上手で、人の良いベテランマネージャーに見えるように羽生田を怪演しているのだから、この俳優も怖いですね!
原作を読んでいない私は、本当の創作意図が何処に有るのか、或いは本作が原作通りに展開して原作の意図を再現しているのかも全く知らない。
私はみんなのレビューを読み、本作を観る前は本作があの名作「愛と喝采の日々」の邦画版で有るのかも知れないと早合点していたのだ。
結果は私の予想と反するもので有った、しかし有る意味、本作がアン・バンクロフトとシャーリー・マクレーンの焼き直しでなかった事はむしろ幸いであった。
村井國夫の確かな芝居を確認出来た事、そして壇れいと本作で出会えた事もこの作品の大きな収穫の一つだった!
やはりハリウッド監督作品にも出演する浅野が普通のマネージャーを演じる筈がないね!今後の彼の活躍振りに更に期待が高まった。