「演技合戦は見どころだけど、続きが見たい」累 かさね Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
演技合戦は見どころだけど、続きが見たい
朝ドラヒロイン、土屋太鳳(「まれ」)と芳根京子(「べっぴんさん」)のW共演による、白熱の演技合戦である。
設定イコール、ネタバレに近いので、とにかく2人の女優を見るためだけの作品。
原作は「イブニング」に連載された、松浦だるまのコミック。キスをすると顔と声が入れ替わる不思議な口紅を、亡き母親から譲り受けたヒロイン・淵累(ふち かさね)は、醜い顔ながらも天性の演技力を持つ。
一方で、美貌に恵まれながら開花しない舞台女優・丹沢ニナは、異常な執念を燃やし、累との入れ替わりを決意する。
つまり"累"の容姿を持つ"累"役と"ニナ"役を演じる土屋太鳳と、"ニナ"の容姿を持つ"累"役と"ニナ"役を演じる芳根京子の、"2人2役"という変わった構成になっている。
土屋と芳根は、2人の人格や行動を演じ分けることを前提にしつつ、卓越した演技力を持つ天才女優"累"にならなければならないのがキモ。ここは言い訳できない。
この演技合戦をしっかり受け止め、対峙するのは浅野忠信。母の協力者・羽生田釿互役で、入れ替わりの秘密を知る、この話のキーマンである。
歌舞伎好きなら、ピンとくるかもしれないタイトルは、茨城県鬼怒川沿岸の地名"累ヶ淵(かさねがふち)"を舞台にした、醜い女性の怨霊をめぐる"累物(かさねもの)"をオマージュしている。
劇中劇を含め、限られた尺で見せ場を作った監督は、「キサラギ」(2007)、「ストロベリーナイト」(2013)の佐藤祐市監督。
サスペンスな演技合戦が見どころにはなっているが、実は、原作のほんのさわりを映画化しただけだ。累はつぎつぎと顔をうばっていくばかりか、同じように大女優にのしあがった母を恨む第三者も登場する続きがあったりもする。
このまま終わるのは惜しいし、映画で完結編が見てみたい。
(2018/9/7/ユナイテッドシネマ豊洲/シネスコ)