「"学歴"や"キャリア"は、その人の本当の価値ではない!」終わった人 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
"学歴"や"キャリア"は、その人の本当の価値ではない!
舘ひろしが、"第42回モントリオール世界映画祭"の最優秀男優賞を、高倉健以来、19年年ぶりに受賞というニュースが飛び込んできた。
劇場公開は今年6月。東映系なので公開館がジミで、西新井まで観に行ったことを覚えている。おめでたいので、思い出して鑑賞コメントを記録しておこう。
舘ひろしももう68歳なのね。"定年"をテーマにしたドラマは珍しくないけれど、とてもヒネリが効いている。
大河ドラマ「毛利元就」や、NHK連続テレビ小説も2回など、多くのドラマ脚本を手掛けている内館牧子による、"原作小説"である。さすがの内館ストーリーだが、なぜか映画の脚本は"本人ではない"ところがおもしろい(脚本は根本ノンジ)。
内館脚本というと、個人的にはTBSの「クリスマスイブ」(1990)を思い出す。吉田栄作と仙道敦子主演で、辛島美登里の主題歌が大ヒットした。最終回は視聴率20%超えした。大昔のハナシである。
"学歴"や"キャリア(役職・職歴)"は、その人の本当の価値ではない。
それに気づくのは、会社という枠組みを卒業したあとである。一方で"専業主婦"には定年はない。それなのに定年後のダンナは、いままでと同じだと思っている。そして"役立たず"になる。
ここまではありがちな設定だ。しかし本作の主人公(舘ひろし)は、"そんなことはわかっている!!"。
定年は、"生前葬みたいなもの"と自虐し、出世コースから外れた、自分の人生をある程度、客観視している。そして"終わった人"と思われていることも認識している。ヒマな時間を持て余し、公園や図書館など避難先を探すが、いずれも、"ジジ・ババのたまり場"。"まだ自分は終わっていない"と再就職に奮起する。
一方の美容師の妻(黒木瞳)は、手に職を持つスペシャリストである。自営業なので定年はないばかりか、今まさに自らの美容院を開業しようとしている。
ここからドラマティックに動き出す。主人公がそのキャリアを見込まれて、新進気鋭の若手社長に誘われるのだ。ところがそんなオイシイ話は長続きしない。まるでジェットコースターみたい。
ちなみにスポーツジムのシーンでちらっと、内館牧子がカメオ出演しているので、思わず笑ってしまう。また主題歌は、今井美樹の新曲「あなたはあなたのままでいい」。もちろんダンナの布袋寅泰書下ろしであり、こちらもよくよく聞いてみると、名曲「PRIDE」の続編みたいな歌詞だ。
「終わった人」はもちろんコメディであり、基本的には心温まる夫婦の物語だが、「リング」(1998)の中田秀夫監督というのも注目である。
中田監督はホラー以外もサスペンス系が多いので珍しい。今年11月にも新作「スマホを落としただけなのに」が北川景子主演で公開予定である。"個人情報流出"をテーマにした恐怖サスペンスで、楽しみ。
「終わった人」はすでに、劇場公開3カ月経っているので、再上映というより多くの人はソフトレンタルとVOD配信で観ることになるだろう。賞を獲っているいるからではなく、なかなかの秀作である。純日本的な部分が多いのに海外で評価されるのがおもしろい。
(2018/6/10 /TOHOシネマズ西新井/ビスタ)