「みずみずしく繊細、かつ豊かな時間が流れている。」リズと青い鳥 あふろざむらいさんの映画レビュー(感想・評価)
みずみずしく繊細、かつ豊かな時間が流れている。
「響け!ユーフォニアム 」というアニメのスピンオフ。自分は「響け!ユーフォニアム 」は観ていないので、本作だけの評価になる。
非常に完成度の高い作品で、日本のアニメはすごさをあらためて感じた。
本作は高校の吹奏楽部の物語で、フルートを担当する傘木希美と、オーボエを担当する鎧塚みぞれが主人公。希美は華やかで、みぞれは地味なキャラクター。
高校最後のコンクールで「リズと青い鳥」という童話を題材とした同名の曲を演奏することになる。この曲にはオーボエのソロがある。「リズと青い鳥」は、リズという少女のもとに青い鳥がやってくる。この鳥は、少女の姿に変身してリズと一緒に暮らす。しかし、やがてふたりの間に別れが訪れ、青い鳥は飛び立っていく、というもの。本作は、希美とみぞれの関係性をリズと青い鳥の関係性に投影して、どちらがリズで、どちらが青い鳥なのか、という問いを投げかけつつ、ふたりの少女の成長を描いていく。
希美は華やかではありながら、ややずる賢くて自分勝手なところがある。みぞれはずっと希美に憧れて後ろからついてきていた。
しかしながら、物語のある部分で徐々にその関係性が崩れていき、やがて反転する。この演出がとてもうまい。
監督の山田尚子は「映画 聲の形」や「平家物語」なども作っている。両方とも、美しい作画と、作中に漂うなんともいえないかすかな悲しみに似た感覚が特徴だと思う。ハッピーなシーンでも、どこか悲しみがある。もちろん「平家物語」は誰もが知っている文字通りの終わりに向かって物語が進んでいくのだから、悲しみの感覚が出てくるのは当然なのだが、それはそうとしても、山田尚子の作品にある悲しみの感覚にはある種の心地よさがある。
こういう悲しさが、本作の主人公ふたりの関係性が微妙に揺れ動く感じを魅力的にみせる一因になっているのではなかろうか。
本作の特徴としては、物語の最初に登校してから、映画の最後の下校のシーンまで学校から出ないというところがある。
時間軸としては、コンクールに向けて練習をしたり、進路を決めたり、といろいろなイベントがあるので、数か月は経っていると思う。ただ、制服はずっと夏服なので、二学期の一部を描いているのか。
学校の外のシーンは出てこないし、家族も出てこない。希美とみぞれの関係性と、童話「リズと青い鳥」を対比するためのシーンだけに絞られている。
学校から出ないという点では松田龍平の「青い春」もそうだったので、完全に斬新な演出ではないのだが、作品のクオリティを上げる意味では効果的な使い方だ。
本作では学校が、青い鳥をとじこめている鳥かごの役割を果たしているのだと思う。
「リズと青い鳥」の練習をしているシーンで、今までの関係性が思い込みだったことが判明し、それを希美が悟る一瞬が、この映画の頂点だ。
ここまでよくも地道に積み上げてきたものだと感心した。こういう作り方は、塩梅がとても難しい。山田尚子のような作風だからできたのだと思う。
日本は一時期優れたクリエイターがたくさん出てきた時期もあったけれど、最近はなかなか新しい才能が出てきていないように思う。
山田尚子はすでに新人ではないのだけれど、これからもっと大きくなっていくことを期待している。