「ゾウの鳴き声が聞こえてきたような気がした。」The Beguiled ビガイルド 欲望のめざめ kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)
ゾウの鳴き声が聞こえてきたような気がした。
中学生の頃、深夜に放送されていた『白い肌の異常な夜(1971)』というタイトルに無性に惹かれてしまい、親に見つからないようにこっそりテレビを見ていた記憶があります。そのうちタイトルも忘れ、また同じ深夜映画を見てしまうことを繰り返し、4回くらい見てしまった。ドン・シーゲル監督、クリント・イーストウッド主演のその映画は忘れることのできない作品となりました。本作はソフィア・コッポラ監督が同一原作を女性視点に変更して再映画化されたものです。
71年版では思いっきりイーストウッドに感情移入できたのですが、今作ではさすがにコリン・ファレルに感情移入はできない作り。南北戦争当時の服装も清楚なイメージが残り、全体的に綺麗な映像になっていました。またニコール・キッドマン演ずるマーサ園長も美しく描かれすぎて、男に対する欲望もあっさりしていたような気がします。「私だって女だから・・・」といった、嫉妬も入り交ざったドロドロ感が物足りないのです。その点、教師エドウィナ(キルステン・ダンスト)と年長のアリシア(エル・ファニング)は71年版の女優たちと全く同じ雰囲気。階段から突き落とすシークエンスもデジャヴを感じたくらいでした。
もう一つ物足りなかったのは、負傷したジョン・マクバニー伍長(コリン・ファレル)を発見したエイミー(ウーナ・ローレンス)の描かれ方。幼い彼女もまたマクバニー“男”として、もしくは父親への憧憬みたいな接し方をして、カメのヘンリーを投げつけられたことで怒り、復讐の念を燃やすといった役割を果たすハズなのですが、その怒りがマーサ園長の陰に隠れてしまった感がありました。これは惜しい・・・
また、全編通してほとんど音楽が流れないのも特徴。虫の音が眠気を誘う心地良さを醸し出しています。実際、ストーリーを知っているためかウトウトしてしまいました。脚を切り取られたあとではゾウの悲鳴によって目が覚めたという感じだったのですが、上映時間も93分と短かったため丁度いい具合でした。