素敵なダイナマイトスキャンダル : インタビュー
柄本佑&前田敦子、どこまでも自然体を貫く“素敵な”初共演
日本映画界のなかで確固とした立ち位置を構築し引く手あまたの状態にある俳優の柄本佑と、女優に転向して5年目を迎える今もクリエイターの右脳と左脳を刺激し続ける女優・前田敦子が、冨永昌敬監督の最新作「素敵なダイナマイトスキャンダル」で映画初共演を果たした。これまで共演機会がなかった事の方が意外だが、当人たちはどこまでも自然体。柄本が、撮影現場の様子を「映画製作の原点を思い出させてくれた」と口火を切ると、あとはとめどなく言葉のキャッチボールが続く1本勝負であった。(取材・文/編集部、写真/根田拓也)
「ローリング」(2015)以降の活躍が目覚しい富永監督に対し、柄本と前田の信頼は厚く、冨永組について話す局面でも笑みが絶えない。柄本は、「美術が出来ていて、メイクさんにやってもらって…という完璧なお膳立てのなか、あとはセリフを言うだけという状況でキャメラが入り、照明・録音が入る。映画作りの大元の原点みたいなことを改めて気づかせてもらいました。全然無理がなくて、そうそう、映画ってみんなで作っていくものなんだよなって気づかされましたね」と振り返る。
一方、冨永監督の人柄に触れた前田は「いつも楽しそうで、冨永さんって本当に映画作りが大好きな方なんだなって感じました。爽快でしたもん。新しい演出をポンポンつけてくれるから、自分で悩む必要はほとんどなかったです。話し合うこともまったくなくて、監督の『これ、やってみて』に付いていっただけなんですよね」とほほ笑む。さらに、「監督とふたりでお昼ご飯を食べたことをすごく覚えています。『好きだった昔の女優さんの映画を、奥さんと見に行ったのが初デートだったんだよね』って話してくれたりして」と明かす。
「ええっ、そんな話するの!? 男に対しては、そういう話しなさそうだなあ」と驚く柄本だが、クランクイン直後の貴重な“冨永節”を思い出してくれた。「いま思い出したんですが、撮影初日に段取りを終えて流れが出来つつあるなかで、監督が新たに思いついたことがあったんです。なので、段取りの中で出来たもののなかにそれを盛り込もうと思ったら、『前にやったことは全部忘れていい。物事は常に先に進んでいるから』といって、『つつつ、ついてきて』とどもりながら言われたんです。それで、なんか身を任せていればいいんだなと感じたんです。どの現場でもインの前日ってよく眠れないんですけど、そこからはただ楽しいだけで、ノンストレスで完全に身を預けている状態でしたね」。
今作は、白夜書房の取締役編集局長を長らく務めたことでも知られる編集者・作家の末井昭氏のエッセイを映画化したもの。幼少期に実母が隣家の息子と不倫の末にダイナマイト心中するという衝撃の体験をした末井(柄本)は、高校卒業後に上京し、キャバレーの看板描きを経てエロ雑誌業界に入る。伝説のエロ雑誌の編集長となり、写真家・荒木経惟らとのタッグで1980年代を席巻していくさまを描く。
エロ雑誌という特殊な“小道具”が、昭和の象徴的な存在として登場する。DVDや無料動画がはびこる現代にあっても、一定の世代以上の男たちにとって郷愁を誘わずにはいられない。それは、柄本にも該当するようで……。
「僕の通っていた高校は駅を降りてバスで山を登って行くんですが、バスだと20分、歩いて帰ると40分。山の途中に、おじいちゃんが経営している古い本屋があったんですが、そこで買うんです。家に帰って読もうと思うんですが、我慢できずに公園で読んじゃうみたいな。家での隠し場所はテーブルの下か、お決まりの布団の下。二段ベッドの下でした。たまに(弟の柄本)時生の布団をめくると、時生は時生で自分のを隠し持っているんですよ。たまに僕の買ってきたやつが時生のほうに移動していたりすることもあった(笑)」
柄本が青春時代の微笑ましいエピソードを披露する間、爆笑し続けた前田。劇中では末井の妻に扮した前田を、柄本は2月26日に行われた完成披露試写会で「色気を漂わせた白いキャンパス」と表現している。その真意を問うと、「なんと言いますか、監督が『僕のあっちゃん』にしたくなる魅力、色気を漂わせているんだと思います。お芝居を一緒にしながら気づいたのが、監督の演出する姿。『僕のあっちゃん』にしたくて、熱心になるんですよね。あっちゃんがひたむきに頑張って進化していく過程が見て取れるし、粘れば粘るほど更に進化していく。それを見た気がします」と説明した。
それにしても、前田ほど柄本家との繋がりが深い女優もいないだろう。家長・柄本明とは「モヒカン故郷に帰る」(沖田修一監督)で共演を果たし、次男・柄本時生とは公私ともに仲が良い。
前田「本当に柄本家が大好きなんですよね」
柄本「親父が言ってたよ。『あっちゃんが明さんって呼ぶんだよ。別に嬉しくないこたあないけど、明さんなんて言われないし、しかもあんなに若い子に……なあ。あれ、やめてくんねえかなあ』って、電話してきたくらいですから(笑)。普通に柄本さんって言いなさいよ」
前田「それじゃあ3人誰か分からないじゃないですか。明さん、佑さん、時生でいいんです」
柄本「親父が色めき立っていて、気持ち悪かったわ(笑)」
前田「だって明さん、優しいし、素敵じゃないですか。現場では、みんなに優しいですよ」
柄本「あのねえ、どうも外ではそんな感じらしいねえ。中ではそんな事ないのに」
前田「本当に見れば見るほど柄本家は面白いです。あんな家族、いませんよ。それぞれのキャラがすごく濃いけど、みんなあまり他人に興味ない感じ。冷めているんだけど面白いから、関わっちゃうとクセになる。素顔を簡単に見せてくれない面白さもたまらない。『ちょっとずつしか見せないよ』みたいな、じらしてくるところも大好きなところなんです」