「それぞれの正義?」検察側の罪人 テツさんの映画レビュー(感想・評価)
それぞれの正義?
オープニングから独特の映像での演者紹介から画面に惹きつけられる
冒頭、木村拓哉演じる最上が語る「検事としてのあり方」や「検事が描くストーリー」についての話は後の展開を示唆するように語られ、それを聞くのは二宮和也演じる沖野…
話は四年後になり、沖野は最上の元で刑事事件の担当に
最上・沖野はそれぞれの会食は静と動ハッキリとした対比で、沖野の「最上流正義の継承するよ」みたいな発言が最後には…
この映画ではカメラワークや音楽、カット割りも独特
BGMをいきなりブチ切るように変わるカットや、不安定にも見えるカメラワークなど独特な雰囲気が漂う
そして本筋たる老夫婦殺人事件に浮かび上がった容疑者の松倉。最上の過去にも関わるこの人物の怪しさやいやらしさ、クズっぷりはアクが強く、見ているこちら側も罵倒してやりたくなるような気持ちの悪さを発揮している
この松倉は最上の親しかった女の子を殺した疑惑の男で、最上は彼に執着していくようになる。そして松倉が真実を語ったとき、彼は…
前半部の見所は、沖野が松倉を取り調べるシーンだろう。
沖野の鬼気迫る迫力は見ているこちらもビクッとさせるほどで素晴らしい
二宮さんの熱演するエネルギーかヒシヒシと伝わる名シーン
後半はネタバレになるが
最上が一線を超える処だろうか
最上は最上なりの(復讐も含めた)正義を貫いたとも言える
ここで最上での“正義”は松倉への復讐。
松倉を時効になった事件では法で裁くことは出来ない。しかし、今この事件での犯人であるならば“検事”として法の裁きを与えることが出来る。松倉をシンプル殺すのではなく、裁判にかけてやりたいというあたりには最上の“検事”としての正義(ここでは少し歪んだ正義)であり、その為に弓岡という有力な真犯人が邪魔になる。弓岡も老夫婦を殺したクズであり、最上は彼を殺す。
松倉を法で裁きたいがために、苦しめたいがゆえに、松倉に冤罪を被せ真犯人である弓岡を殺すというのは彼のエゴが詰まったストーリーとも言える。
沖野は捜査の過程、証拠、取り調べなどを通して、真実を見出そうと奮闘する(憧れの検事がかつてそうしていたように…)
その過程で憧れの男の暴走を垣間見ることで、沖野は最上と対立していく…
ラストの沖野の叫びは、かつて憧れた男への失望や悲しみの慟哭か、最上が貫いてしまった1つの正義の形への葛藤か…
あとは松重豊演じる飄々とした怪しげな男が良いキャラクターをしている(というより彼がいると色々とサクサク進むね)
正直、吉高由里子演じる橘の話(いつからそんなに親しくなったの?だし、ノンフィクション本だかはどした?)や最上の友人である只野(だっけ?)のお話は本筋に絡むようで絡まないようで、ちょっと扱いが微妙な印象(特に友人関係や最上の親子関係)
この辺は原作を読んでみたいかな
こういう事件が実際にもあるかもしれない(もう起きているかもしれない)というストーリーではあるし、“正義”“法”“復讐”“罪”といったテーマに静かに迫るスリリングな物語