「犯罪が日常の仕事」検察側の罪人 KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
犯罪が日常の仕事
予告編の印象から重厚になり損ねてフワフワしてしまう映画かなと思っていたら、案外エンタメ要素の強いハッキリしたサスペンスだった。
情報量の多い台詞が駆け巡り、最初はその独特のテンポに面食らったけど慣れてくると頭の中で整理しながら観るのが楽しくなってくる。
自分の正義を盲信し固執し貫く為に一線を越える者と、また別の正義によってそれを留めようと動く者。
正義とは何か?と考える余地もなく、正しさの判断は一目瞭然。
最上の行動は自分が今まで裁いてきた凶悪犯たちと何ら変わりの無い、検事でいる意味が無い、紛れもなく最悪なものであり、しかしどうしてもその執念を完全否定して切り捨てることのできないものでもあり。
沖野を通してそのジレンマを強く感じ、後を引く面白さがあったと思う。
割とトンデモな本筋ではあるけど、良い感じにぶっ飛んでいて好き。
とても残念だったのが、丹野議員に関してほぼ何も理解できなかったこと。
これは台詞を追えなかった私が悪いんだけど、丹野が何をしたのか、何をしたかったのか、何故自殺したのか、全く分からなかった…
最上との関係性くらいしか把握できず非常に悔しいので丹野を追う為にもう一度観たい気もする。原作も読みたい。
テンションの高い脚本にリアルに寄せた演技・演出が一見ミスマッチでも癖になって良かったんだけど、創作ダンス隊やセクシーな運び屋や弁護士夫婦など所々で謎の非現実感をぶち込んでくるのには少しズッコケた。
最上の家族の描写は些か中途半端だし。
橘と沖野のロマンスは良いんだけど「大人の男の流儀」という謎の概念にはピンと来なかった。
所々で引っかかる点はあれど、メインのストーリーが私好みだったのでまあ良いかと思えたけど。
二宮和也の演技が予想以上に良かった。
普段の話し方から上手いし、諏訪野との皮肉合戦の言い合いのような取り調べと、松倉との取り調べで過去の自白をした後のえげつない怒鳴り方には鳥肌が立った。あのシーンからガラッと気持ちが変わった。
よく通る天性の声質が合っているんだろうな。
あれをただ叫んでるだけと言ってしまうにはあまりにも勿体ない。
木村拓哉の、良くも悪くもキムタク感というか、いつものトーンも私は割と好き。
あまり期待していなかったぶん、想定以上の良作に出会えて良かった。
本筋には関係ないけど、後ろの方でおそらく強かん事件を担当し起訴しようとしている検事の「これだから女検事は…と言われないために厳しくするんじゃないんですか?」という台詞が胸に刺さった。