「単館系作品で異例の動員。補助いすで鑑賞」ボブという名の猫 幸せのハイタッチ うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)
単館系作品で異例の動員。補助いすで鑑賞
有名スターのキャスティングもなく、大きな宣伝の予算もつかず、手掛かりと言えば何ともつかみどころのないタイトルと、男の肩に乗るふてぶてしいネコの表情。
なんか気になるストーリーだったので、フラッと単館系の作品を上映している映画館に、出かけてみたらびっくりするほどの熱気。満席で、臨時に設置した補助いすで鑑賞するという、旧き良き時代を彷彿とする映画鑑賞になりました。
昔の映画館って、途中でも(ラスト直前をのぞき)入場できたし、入れ替えもないから、椅子が空いてなきゃそのへんに座って観てたし、何べんでも気のすむまで繰り返し観れた。とにかくいい大人が、わざわざ時間を合わせて一日数度しか上映しない作品に、これほど集まるとはビックリしました。
内容は、まあ満足かな…という感じです。
以下は、ネタバレになりますので、ご注意ください。
・私も、独り暮らし時代にネコを飼っていたので、妙な親近感と、「あるある」の連続でした。私の飼っていたネコはメスで、彼女もテリトリーの範囲では私にくっついて離れませんでした。近所の公園までは並んで歩いていました。
・このネコもなかなか演技派で、「好奇心」「警戒」「リラックス」「毛づくろい」などの表情はリアルなものに感じました。それ以外に必要なのは、バスに飛び乗ったり、ネズミやカエルを狩るシーンだったり、ネコを肩の上にのせてギターを弾き歌うという、簡単には撮影できそうにないシーンばかりで、優秀なアニマルトレーナーが付いていたのでしょうが、原作のネコ(オリジナルのボブ)もちゃっかり出演しているそうなので、肩に乗るのは得意なのかもしれません。
・ネコが主役の映画はどうしてもネコのペースに合わせないと出来ないので、主演のルーク・トレッダウェイ君は、若いのに大変な撮影だったと思います。ギターの腕前はそこそこですが、歌もうまいし、常にネコに話しかけながら演技しています。
・その肝心の音楽は、正直もうひとつピンとこない歌ばっかりです。路上ミュージシャンが、感動モノの歌を歌っていたら、それこそ歌だけで成功できたでしょうからね。でも、映画用に、音楽の担当者をつけて、ソングライティングや歌唱指導したのでしょうから、もっと磨き上げて欲しかった。『セロ弾きのゴーシュ』みたいに、ハトやイヌがなぜか寄ってくる不思議な歌声とか、いくらでも演出できたでしょうに。残念ながら、もう一度聞きたくなるほど刺さる歌はありませんでした。
・ストーリーは淡々としていて、実話をもとに構成されているようです。ホームレスでゴミを漁るほど困窮した主人公がネコと出会い、立ち直るまでのお話ですが、大きなヤマ場もなく、だいたい想像できる範囲でストーリーが進行していきます。もっと演出を加えても良かったんではないかと思いました。映画ですしね。起きていることはとんでもない事件ばかりなんですよ。友達がドラッグで死んだり、ネコを売ってくれと無茶を突きつけられたり、朝食を買うお金が足りずに目の前で捨てられたり。それを、さほど落ち込む様子もなく受け入れるしかない主人公に、感情のふり幅が小さくて、哀しさとか怒りとかを、もっとうまく表現できる役者だったら、印象も違っただろうにと思いました。
・ ロンドンの名所もところどころ出てくるのですが、日本人にはもう一つなじみのない景色でした。まあ、でもそれがリアルな英国人の生活なんですよね。