劇場公開日 2017年8月26日

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「猫と人間の温かい絆を素直に写実したノンフィクション映画の心地良いタッチとリズム」ボブという名の猫 幸せのハイタッチ Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5猫と人間の温かい絆を素直に写実したノンフィクション映画の心地良いタッチとリズム

2022年2月22日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

心が温まる映画。ヘロイン中毒のジェームズというイギリス人の若者が周りの優しい人々に囲まれ勇気付けられ更生するヒューマンドラマの側面もあるが、それ以上にジェームズのピュアな性格を引き出し、麻薬漬けの生活から生きるための日常を取り戻させる茶トラの猫ボブとの絆が作為のない自然なタッチで描かれている。原作者ジェームズ・ボーエンの『Street Cat Named Bob ; And How He Saved My Life』(2012年)が出版に至るまでのストーリーを、ドキュメンタリー映画のように演出したロジャー・スポティスウッド監督のノンフィクションドラマで、このカナダ人スポティスウッド監督の経歴がユニークだ。「わらの犬」のサム・ペキンパーや「熱い賭け」のカレル・ライス、そして「ストリートファイター」のウォルター・ヒルと第一級の監督作品の編集を担当してから監督になった珍しいキャリアを積んでいる。どちらかと云うと硬質な演出を得意とする監督たちとは違って、この映画のスポティスウッド監督は、短いショットを繋いでジェームズとボブの日常を丁寧に描写している。そのモンタージュに独特な映像のリズムとタッチがある。特に要所要所でボブの視点からのショットを絡ませ単調なシーンを補い、またボブと鼠の追いかけっこショットをサービスするユーモアもある。技巧的に優れていると云うより、あくまでノンフィクションに即したリアリティの映像を心掛けた、その意味では計算された撮影と編集の、より身近に感じられる映画だった。エピソードでイギリス的だと思ったのが、ボブが逃走して行方不明の切っ掛けになる、お金持ち風の婦人が子供がせがむのに折れてボブをお金で買い取ろうとするところ。ここに上流階級へのささやかな批判が感じられる。
日本と違って、ロンドンの路上生活者の現実は、麻薬の誘惑も含め想像以上の過酷さが見て取れる。階級社会と個人主義のイギリスにあって、自己責任で判断され片付けられる。弱毒薬物のメサドンを利用した更生プログラムなんて、このような映画を観ないと知ることはないだろう。弱っている人間のところに犯罪が蔓延り、それを金儲けにする組織が蔭で繁栄する現実にも、何か納得できない社会の現状を感じないではいられない。

主役のボブがジェームズ演じる主演ルーク・トレッダウェイに懐いて好演。一人の登場人物の存在感と威厳のある眼差しがいい。ジェームズの親切な隣人ベティを演じたルタ・ゲドミンタスのヴィーガンらしさ。父親がリトアニア人の変わった名前で、容姿も個性的だが演技は癖なく素直な印象。ソーシャルワーカー役のジョアンヌ・フロガットと共に、トレッダウェイとの演技のバランスはいい。

誰もが猫を飼ったら、更生できる訳ではないだろう。ジェームズの様に、生い立ちのトラウマから自立して、他人からの好意に応える自信と覚悟を持ち、誰よりも自分を必要とする(人)を大切にする優しさがあれば、奇跡が訪れるかも知れない。それがジェームスの場合、ボブと名付けられた野良猫だった。ボブは、2020年の6月15日に惜しくも亡くなり、銅像がロンドン北部の公園のベンチに設置されたと云う。享年14歳。最後まで人と生き物の温かい友愛が感動的なお話で、心が和みます。採点は、ボブ君に★半分追加します。

Gustav