劇場公開日 2017年8月26日

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「ポツダム宣言の感動を共有する」米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5ポツダム宣言の感動を共有する

2017年9月10日
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鑑賞方法:映画館

知的

 権力は必ず腐敗する。民主主義が保たれるためには政治権力の交代が必須である。民衆は強権に確執を醸すことを忘れてはならない。
 しかし強権は屡々警察その他の暴力装置を用いて反権力の人々を弾圧する。時に名声を貶め、時に拘束して拷問する。強権に対峙し声を上げて反対するためには、死をも覚悟した上でなければならなかった。
 沖縄における米軍は、暴力装置そのものである。戦後間もなくから現在に至るまで、無辜の沖縄の人々を無残に殺してきた。多くの女性や子供が海兵隊に強かん(映画.comではかんの漢字が使えない)され暴行されている。
 圧倒的な暴力に対して、反対の声を上げることは勇気のいることだ。夜の闇に紛れて米兵を暗殺する方がまだ簡単かもしれない。衆人の見守る中で正々堂々と米軍を否定する亀次郎は、沖縄人の勇気の象徴であり、拠るべき砦であった。
 亀次郎の強さは暴力をものともせず主張すべきことを主張する精神力にある。明治以来の富国強兵のパラダイムの中で育った彼にとって、ポツダム宣言の次の文言は衝撃的であった。

 宗教及思想ノ自由並ニ基本的人権ノ尊重ハ確立セラルヘシ

 民主主義を知らなかった人間にとって、何を信じても何を考えてもいい、何を言っても書いてもいい、人間にはその権利があるという考え方は、新鮮そのものだ。そこには自由と人権がある。暴力に屈せず、暴力によることなく、自由と人権を手に入れる。スパルタカスの昔から人間に根源的に宿る思いだ。ポツダム宣言の文言に触れた亀次郎の感動は、現在の我々も共有する感動である。
 国家主義に負けず、組織の大義名分に負けず、友達グループの掟にも負けず、自由と人権を主張しなければならない。友達から無視されても、村八分になっても、会社を馘になっても、逮捕され絞首台に向かうことになっても、なお主張しなければならないのだ。
 亀次郎は沖縄の自由と人権を死ぬまで主張し続ける本物の強さを持っていた。暴力が彼を拘束し貶めても屈することなく立ち上がり続けた。我々も同じ強さを持つことができるだろうか。特定秘密保護法と共謀罪が自由と人権を封じようとしている現在、亀次郎が生きていたらどう行動するだろうか。

耶馬英彦