きっと、いい日が待っている : 映画評論・批評
2017年8月1日更新
2017年8月5日よりYEBISU GARDEN CINEMAほかにてロードショー
虐待の横行する施設で、「宇宙」への夢を支えに闘った兄弟の実話ドラマ
目を背けたくなるような現実を容赦なくえぐり、過酷な運命にあえぎながら必死で生きようとする人たちの姿を刻みつける。これはいわば、デンマーク映画のお家芸だ。1960年代後半にコペンハーゲンの児童養護施設で起こった虐待をベースにした本作もまたしかり。施設の実態、先生や子どもたちの心情、希望をつなぐ闘いを克明に描き出し、見る者を惹きつける手腕には舌を巻くばかりだ。
片足が内反足で不自由ながら「宇宙飛行士になりたい」と夢みる10歳のエルマーを、3つ上の兄エリックはいつも助けていた。しかし父を亡くし、母まで病魔に冒された2人は、養護施設に預けられることに。ここからが地獄の始まりだ。施設は独裁者のような校長に厳格に管理され、囚人のような暮らし。年上の同級生からいじめられ、逃げれば殴られる。弟は薬物を投与され、変態教師に性的虐待まで受けてしまう。弟が読み書きの才能を買われ、唯一やさしさを見せる女教師に郵便係を任されたり、同級生が家族から受け取った手紙に「こう書いてあったらうれしい」という脚色(宇宙の話入り)を加えて読んであげたり、という微笑ましいシーンもあるが、希望が見えそうになると必ず、その光を踏みにじる悲惨な出来事が波状攻撃のように襲うのだ。
満身創痍の兄弟による闘いは、級友からの助言通り「“幽霊”になる」というものだった。そんな中でエルマーを支えているのが、揺るぎない兄弟愛と「宇宙」という夢。ケネディがアポロ計画を実現したこの時代、彼にとって「宇宙」は希望そのものなのだ。これは観客にとっても救いとなるし、エルマーの無邪気なキャラクターを浮き彫りにしてドラマに奥行きを与えている。脚本の構成が実に見事。
そして、何よりこの映画を実のあるものにしているのが、俳優たちの的確な演技だ。校長役のラース・ミケルセン(マッツの兄)が見せる狂気のような凄みはどうだ。母親の死を知らされ食堂で泣きじゃくる兄弟の顔を「食え!」と怒鳴りながら皿に押しつける校長は、ホラー級の怖さ。しかも彼、微笑みが非常に恐ろしいときている。「子どもたちのためだった」と本気で思っていそうで、その点も恐怖。そのラースの怪演に負けない、子役たちがまた素晴らしい。とくに弟エルマー役のハーラル・カイサー・ヘアマンは、かわいらしくけなげなだけではない。役や物語の意味をすべて理解し、まっすぐな眼差しだけでものすごく多くのことを語れている! 末恐ろしい、小さな名優だ。
(若林ゆり)