「ホラーでもSFでも無い、新しい視点」テルマ クラさんの映画レビュー(感想・評価)
ホラーでもSFでも無い、新しい視点
ノルウェーの透き通ったような空気感が映える静かなショットが多い本作は、どこの国の映画とも被る事の無い、独特の世界観を有した作品である。
厳格なキリスト教の元で育った主人公、テルマが大学進学を期に都会に出て来て少し危なっかしい交友関係を得る。決してタガが外れたヤバイ連中では無く、ちょっと麻薬の入っているであろうタバコを吸ったり等、恐らくノルウェー含め海外ではごく普通の一般的な学生なのだろう。そういうのも主人公にとっては宗教の教えの観点から見て明らかにアウトなのだろうが、それでも若さ故の好奇心から危ない関係を続けた挙句、それらを事の発端として、テルマが悪魔に取り憑かれ…というのが一般的なホラー展開であり、それだと数ある作品に埋もれてしまうのだろうが、本作は心因性の非癲癇性発作を起こしてしまったテルマを目線として、基本的には学生として日々を過ごす様子を淡々と描いているのである。その中で初めての恋心を抱く瞬間等、冒頭での衝撃的な一幕の謎を明らかにするタネが出されないまま、病院にて癲癇症状の診断を受ける中で次第に明かされていく彼女の生い立ちを小出しにする形である。発作のせいで順風満帆とはいかない学生生活の中でも密かに思いを寄せる友人との関係等で光も差している様だが、その日々に水を差す様に描かれるテルマの両親はやや心配性で観ているこちらは"ウザいな"と感じる位だったが、それもきちんと理由あっての過保護さであり、後半でじわじわと明らかになっていく構成だった。
主人公が恋をした相手が女性であり、相手は明言こそしないもののレズビアンである事は間違いなさそうである。今で言うLGBTQの人々だ。
彼女の存在が後半に生きてくるのだが、女性に恋をしてしまったという考えを拭い去りたく思い、渾身のお祈りをしたりなど、テルマが抱えるプレッシャーや焦り、相手を想う心などが制御出来なくなるシーンはこちらも胸が苦しくなる思いである。116分の本編で静かながら徹底的に些細な心情変化を描いている分、苦しみは良く伝わる様になっていた。終始穏やかなテンポでどこか寒さが伝わって来る様な演出は最後まで続くが、かなり後半にまぁまぁの衝撃的展開となる。結果的にはバッドエンドでは無いだろうが、まさかの考えさせられる何とも言えぬラストであった。両親目線とテルマ目線どちらに立つかで受け方も変わるだろうが、車椅子生活の母親の何とも言えぬ表情と、厳格さを保つ父の姿、幸せそうな顔をしているテルマにはどう映るのだろうか。そんな事を考えながら余韻に浸れる作品である。
