「プライバシーに関する人種」ザ・サークル dekamoさんの映画レビュー(感想・評価)
プライバシーに関する人種
序盤からサークルで働く人間の様子に恐怖を感じた。洗脳された人間たちだと思った。主人公メイの友人アニーである。生き生きとしているのか、命の炎にガソリンぶっかけてるのかといった様子で、そのアニーの姿と一般的な生活をしてきたメイとの対比で異常さを感じさせる。同時期に公開されている「IT」のピエロより奥底からくる怖さだった。
重要な場面が印象的に描かれる。一つは、メイが独りで起こしたカヌーの事故をサークルの製品で救われる。というのをきっかけに、メイのサークルの方針についての疑心が解かれ、すべてが見えるようにするという考えを自ら勧めていく展開となる。
もう一つは、すべてが見える、誰もが見つかるという製品の発表会におけるメイの友人マーサーの死である。これにより、メイが我に返り物語は終息に向かう。
一つ目の場面では、海で、波が激しくなり、霧が濃くなり、間から船が現れるところがスピード感がありショッキングに感じた。その後のトム・ハンクスの「こいつは使える」というような目つきは恐ろしかった。ここを機にエマワトソンの表情も変わっていく。洗脳前後である。
二つ目の場面では、マーサーの居場所がすぐさま特定されカーチェイスに発展する。会場の期待の空気も、現場の展開も高揚して、絶対良くないことが起きることを予感させる。とても印象的であり、物語の転換場面になっており、気持ちよくさせられる。
洗脳に関しては、先日「クリーピー偽りの隣人」を見たきっかけから北九州洗脳事件を調べたおかげで、素直でまじめなメイが命を救われたことで会社に負い目を感じたところで饒舌に言いくるめられて洗脳完了という流れが非常に腑に落ちた。
入社してしばらくで、週末何してたの・つながらなくちゃみたいなこととか訊いてきたアジアっぽい女性と南米っぽい男性の洗脳感は酷かった。
情報社会におけるプライバシーという題材の中で、家族や友情がとても良い働きをしていた。メイの両親は父親の病気の症状から保険、SEX、メイがメイでいられるところとしても新鮮であり重要な役割があった。すこし調べたところ、両親役の俳優さんが両名とも今年亡くなっていて驚いた。エンドロール「for bill」という意味は父親役の俳優さんへという意味。母親役の俳優さんは公開後に亡くなっている。
友人アニーそしてマーサーはメイの生き方に変化を与えてくれる。良くも悪くも。メイが一件で疲弊しアニーが帰郷しビデオ電話する場面、電話ありがとうっと言える友人との関係、テクノロジーとコミュニケーションの在り方のバランスを考えた。顔を見て話せるだけで通じるものがある。すべてを知る必要があるだろうか。
物語の終わり方としては、問題提起で終わってたかもしれない。SNSの良い在り方を提示することはしない。問題提起に価値を感じたのは間違いない。創設者のひとりでサークルの暴走に暗躍するタイにもっと表に出る形で活躍してほしかったという思い残りがある。
サークルのモチーフはグーグルはじめ、アップルやマイクロソフトを足し合わせたようなIT企業。作中でも明示される独占禁止法への抵触の危惧。独裁は早くて楽かもしれないが、対立し戦う状況こそ健全だろう。サークルの赤いロゴの旗が映るところが日本の日の丸国旗に見えて、何の暗示だと思った。