「エッガースは”鬼門”。目の付けどころはいいがオチが弱い」ザ・サークル Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
エッガースは”鬼門”。目の付けどころはいいがオチが弱い
「美女と野獣」(2017)の後の、エマ・ワトソンが主演、共演がトム・ハンクスということで、当然、期待度も高くなるが。
原作はデイヴ・エッガース(Dave Eggers)の小説。エッガースは”鬼門”である。目の付けどころはいいがオチが弱い。実に惜しい出来の作品である。
エッガース作品は「王様のためのホログラム」(2017)をはじめ、映画化すると、ことごとくコケる。マット・デイモン×ガス・バン・サントの名コンビも、「プロミスト・ランド」(2014)でエッガースに挑戦したが、興行的には予算回収に失敗している。
それでもトム・ハンクスだけは懲りない。その「王様のためのホログラム」(2017)の主演に続いての、本作出演である。他にもトム・ハンクスが製作、名作絵本を映画化した「かいじゅうたちのいるところ」(2010)にエッガースが脚本参加していたが・・・言わずもがな。
エッガース小説は、ブラックジョークを交えて、社会問題にシニカルに斬り込んだ知的な作風で、問題意識の高いハリウッドセレブと共鳴するのかもしれない。「王様のためのホログラム」というタイトルは、"いまや米国は偉大でもない"ということを、アラブの王様に米国製品を売り込みに行く米国人という設定と、"ホログラム"という言葉で暗喩していた。
主人公のメイ(エマ・ワトソン)が就職した、世界的なSNS企業"サークル"は、誰もがうらやむ超優良企業。給与や職場環境、福利厚生もこのうえなく、スポーツ施設や社内クラブ活動も充実している。業務終了後に中庭でパーティが開かれたり、有名ミュージシャンが芝生でライブ演奏をしていたりもする(これはまさにGoogle本社がモデル)。
しかし圧倒的な世界シェアを誇る"サークル"は、メールやSNSだけでなく、クレジット情報や購入履歴、家族や友人の情報、あらゆる個人情報を集め、ネット上のアイデンティティを構築しようとしていた。そこに24時間、個人や社会を監視できるシステム"シーチェンジ"が登場する。その"シーチェンジ"のモデルユーザーに、メイは選ばれる。
本作「ザ・サークル」は、"Facebook"や"twitter"を始めとしたSNSや、"Google"などによる情報管理テクノロジーが加速化し、プライバシーのない超管理社会が生まれてくるという恐怖を描いている。
ソーシャルメディアでつながりすぎた人々は、それなしでは生きていけない。個人情報を共有しあうことで、隠し事がなくなり、平和が生まれるという幻想を作り出す。
主演エマ・ワトソンはフェミニズム活動家として有名だが、演じるメイの、凛としたスピーチシーンが印象的で、彼女の強い意思表現らしさを垣間見る。
サークル社の社是は、"秘密は嘘。分かち合いは思いやり。プライバシーは盗み"。これはジョージ・オーウェルの小説「1984」でのスローガン、"戦争は平和。自由は隷属。無知は力。"的な二重語法と同じである。こういうところがエッガースの言葉遊びで、知性に憧れるハリウッドセレブをクラクラさせるのかも。
しかしエッガースのオチに期待してはいけない。要は、"なんでも行き過ぎは良くない"、ということなのだが、実に尻すぼみ。映画のオチは行き過ぎのほうが面白いと思うのだが…。
原作を無視してでも、翻案できなかったのだろうか? 実にもったいない。
(2017/11/10 /TOHOシネマズ日本橋/シネスコ/字幕:松浦美奈)