「B級映画でもしっかりお金をかけている」スクランブル 曽羅密さんの映画レビュー(感想・評価)
B級映画でもしっかりお金をかけている
主演はスコット・イーストウッド、あのクリント・イーストウッドの息子である。若い時の父ちゃんにどことなく似ていなくもない。(あれほど大きくはないが)
スコットには異母兄姉妹が6人いるが、彼自身は婚外子のため昔は母親の性を名乗ってスコット・リーヴスだった。
親父の監督作品『父親たちの星条旗』や『グラン・トリノ』への出演時はまだリーヴス名義で出演している。
その後はやはり「イーストウッド」という知名度も響きも良い名前を選び『インビクタス』や『人生の特等席』など親父のからむ映画にバーターのように出演しているが、全く印象にない。
親父から離れて後も『フューリー』や『スーサイド・スクワッド』にも出演しているらしいが、こちらも同じく覚えがない。次回は『パシフィック・リム』の続編に出演するらしい。
さて本作はクラシックカーを全面に押し出した、それ以外はありふれたカーアクション映画である。
2人の兄弟が主役だが、異母兄弟という設定がイーストウッド家の家庭環境をそのまま反映しているようで面白い。
クラシックカーどころかほとんど車に興味のない筆者でも何台ものクラシックカーの名車が一堂に集まり、それらが動くのを目にすると感心してしまう。
内容はともかく車好きにはそれだけで溜まらない映画なのかもしれない。
車好きではないので『ワイルド・スピード』シリーズに一切興味がなく実際シリーズ作品を1つも観たことはないが、同シリーズファンなら楽しめるのかもしれない。
アストン・マーティン、ジャガー、アルファ・ロメオ、シボレー、フォード、BMW、ブガッティ、ポルシェ、フェラーリと欧米の名車が登場する。実は日産のマーチも登場していたらしいが全く気付かなかった。
なお型が残っているものはわざわざ本作のためにレプリカも数台作って走らせていたらしいから相当お金をかけていたことが知れる。
なんだろう?それでも漂うこのB級映画感。逆にB級映画でも本気でお金をかけるところがハリウッドの恐ろしさでもある。
監督のアントニオ・ネグレとプロデューサーのピエール・モレルは、本作に影響を与える作品として、スティーヴ・マックィーン主演、サム・ペキンパー監督作品の『ゲッタウェイ』、同じくマックィーン主演の『ブリット』、ウィリアム・フリードキン監督作品の『フレンチ・コネクション』、ポール・ニューマンとロバート・レッドフォード主演の『明日に向かって撃て!』などの名前を挙げている。(筆者は『ブリット』のみ未観)
上記作品や、とりわけ『俺たちに明日はない』が代表するアメリカン・ニューシネマの作品群ではことさらに暴力へ傾斜していく人間の儚さが描かれていたように思うが、本作にはその要素は見当たらない。
またこれらの作品はあのベトナム戦争への反戦運動で盛り上がった時代だからこそ制作もされ説得力も勝ち得たように思える。
映画に限らず芸術(エンタメ)には確実に時代の雰囲気が入り込む。
ファンタジー作品やSF作品であっても作者がある時代に生きている以上、必ずそれぞれの時代が反映されるものである。
むしろ現代作品に過去の理念を含ませる方が難しいだろう。
一方で監督のネグレは本作を評して「現代的な映画で、若さや遊び心やエネルギーに溢れていて、とても商業的な側面がある」とも発言している。
なんだかよくわからない。
まあ、筆者が思うにもっともらしいことは言っているけれど、本音は「売れれば何でもいい」なのかな?と。
本作のどんでん返しや伏線はそれなりに楽しめる。
上記名作群から比べるとカーアクションは確実に劣るものの、こちらも最高ではないが満足はできる。
もっとも猛スピードで走る敵マフィアの車を横からバスで体当たりしてふっとばすことはまず無理だろう。
実際に撮影した際は相当緻密に計算して車もバスも動かしているはずである。
なお主役のスコットの役柄は冷静沈着な兄貴という設定らしいが、つかまった恋人に会いにマフィアの邸宅に行った際にカッとして子分を殴り倒すなど単細胞にしか見えなかった。
おいおい恋人を助けるどころかその場で射殺されるかもしれないじゃないか?
アメリカ映画には往々にしてこの手の熱いキャラクターが登場するが、これもマッチョを信奉するアメリカ社会ならではといったところだろうか。
因みにこのマッチョ思想が災いしているのか、かつてはDVで夫が妻を病院送りにするケースが年間400万件、殺された妻が年間3600人、妻が反撃して夫を殺すケースが年間500件もあったという。
しかも妻の夫殺しが正当防衛と見なされるようになったのは90年代になってかららしい。
アメリカで最もフェミニズムが盛んになった背景はこんな理由もあるのだろう。
現在は肥満の比率が全国民の40%を占める(日本の人口と同じくらい)までになってしまった最近はそこまで多くないのかもしれないが、定期的に銃乱射事件も起きていて、この映画におけるスコット役の単細胞ぶりを見せられると案外減っていないのだろうか?
なんだかんだでお金はかけているので、細部にこだわらずクラシックカーを楽しむ映画と割り切るといいかもしれない。
日本の映画業界と比較するとB級映画にもお金をかけられるところはうらやましい限りである。