「本物の人間関係って、全部は語らないんですよね」gifted ギフテッド マツドンさんの映画レビュー(感想・評価)
本物の人間関係って、全部は語らないんですよね
月並みのストーリーで、予測範囲内の結末。
そういう意味では、ちょっと安っぽいのだけれど、映画の良し悪しはそれら以外で決まることもあるんだよ、と感じさせる力がこの映画にはありました。
端的に言えば、登場人物が勝手に動き出している、って感じ。
フランク、メアリー、イブリンそれぞれが抱えるもの、そして、そこから出てくる言葉に説得力がある。
それは、フランクとイブリンの、最後の対決・和解のシーンに集約されていました。
イブリン「ミレニアム懸賞問題なのよ。黙っているはずはない。それこそ、でたらめだって証拠よ」
母親は、息子を嘘つき呼ばわりすることに、躊躇がありません。
たとえ、息子を傷つけたとしても
母親は、あくまで自分の意思を通そうとするのです。
ところが、しばらく後には、そこに全く違うイブリンがいます。
ダイアンが完成させた証明を発表するよう、息子に促されると
イブリン「ダイアンが望んでいるとは思えないわ」
と、自分の欲望ではなく、娘の思いに立った意思決定を望むのです。
この劇的な変化は、何でしょう。
もちろん、次の言葉が引き出した変化です。
フランク「ダイアンにはっきりと指示された。死後に公表してくれと」
イブリン「死んだのは6年前よ」
フランク「ダイアンの死後って意味じゃない」
ダイアンの死後、でなければ、誰の死後か?
あえて、それを明白にしない科白。
息子の母に対する配慮の表れでしょうか。みなまで表現しない奥ゆかしさでしょうか。
ここで見せるイブリンこと、リンゼイ・ダンカンの演技は秀逸です。
シナリオと役者がかみ合った瞬間の妙でしょう。
この場面以外にも
フランクとメアリーが和解する際の、ことばのやり取りとふれあう姿。
ダイアンがMITに電話した後に研究ノートを見て涙ぐむ、その展開の順番。
いやぁ、この映画にかかわったスタッフの力量に圧倒されました。
映画の楽しみ方を、あらためて教えてもらった、そんな映画でした。