「アドラー家の歴史(予習にどうぞ)」gifted ギフテッド モーパッサンさんの映画レビュー(感想・評価)
アドラー家の歴史(予習にどうぞ)
これから見る人の理解を助けるために、ネタバレにならない範囲で、アドラー家の歴史を整理してみた。
イブリンは英国人、英国の名門ケンブリッジ大学で数学を研究していた。当時、女性の数学者は非常に珍しかったと考えられる。そこで、アメリカ人数学者の男性と知り合って結婚し、アメリカ/マサチューセッツ州に移住した。マサチューセッツ州の最大都市ボストン周辺には、MIT(マサチューセッツ工科大学)、ハーバード大学、ボストン大学など、いくつもの著名大学が車の日帰り圏内にあり、そのどれかで研究を続けたと考えられる。まもなく、長女のダイアン、続いて長男のフランク(主人公)を出産した。フランクが8歳の時、父親が死去するが、その後イブリンは資産家ウォルターと再婚し、経済的安定を手にした。イブリン自身は研究から遠ざかったが、二人の子どもに徹底的な英才教育を施した。ダイアンだけでなく、フランクも数学の英才教育を受けていたことは、「フランクも8歳でトラハテンベルク法を修得した」という発言からうかがわれる。
とは言え、フランクは母親に反発し、哲学の道に進んで、ボストン大学の哲学の准教授になる。一方、ダイアンは生まれつきの数学の天才であり、英才教育もあって、22歳でMITでミレニアム懸賞問題の一つ、ナビエ・ストークス方程式に取り組む。しかし、ダイアンにとって、数学の天才としてのキャリアは、必ずしも幸福とは言えなかったようだ。17歳でできた恋人とは、母親に引き裂かれる。26〜27歳で未婚のまま妊娠したときは、母親から責められたようだ。そんなダイアンにとって、弟フランクは唯一の理解者だったかもしれない。ダイアンは女児メアリー(もう一人の主人公)を出産し、生後数ヶ月のメアリーをフランクに託して自殺する。
フランクは、ボストン大学を辞め、おそらく母親と連絡を絶ち、当時まだ乳児のメアリーを連れてフロリダに移住する。ボートの修理で生計を立てるが、大学の准教授に比べれば、大幅な減収だ。「北部」に属し、経済、学問の中心であるボストンと、「南部」のフロリダとでは、気候も、生活・文化レベルも、人種構成も全く異なる。フランクは、なぜ縁もゆかりもないフロリダに移住したのだろうか。成人してからのダイアンとフランクとの間にはほとんど交流がなかったが、ダイアンが人間的な幸福を渇望して苦しんでいたことを、フランクはよく理解していたようだ。このため、ダイアンはフランクに遺書を残さなかったものの、メアリーをイブリンにではなく、フランクに託したということは、「メアリーを私の二の舞にしないでほしい。メアリーをイブリンから守って」というダイアンの強い遺志だとフランクは受け取ったと考えられる。
それから6年半。7歳になったメアリーに、ダイアンに勝るとも劣らない才能があることは、誰の目にも明らかだった。しかし、普通の子どもとしての体験を積ませたいフランクは、メアリーを地域の小学校1年生に入学させることにする。その一日目から、この映画が始まる。