ローガン・ラッキー : 映画評論・批評
2017年11月14日更新
2017年11月18日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー
不器用でマヌケで愛すべきキャラクターたち。ソダーバーグらしい犯罪コメディ
「スティーヴン・ソダーバーグが引退を撤回!」というのには、正直、さしたる意味はない。ソダーバーグは傑作ドラマ「The Knick ザ・ニック」を作ったり「マジック・マイクXXL」で撮影監督をしていたり、全然作品作りから遠ざかってなかったし、ぶっちゃけほとんどの人が“引退”なんて信じていなかっただろう。
とはいえ4年ぶりの新作映画が力の抜けた犯罪コメディだった――というのはいかにもソダーバーグらしい。ソダーバーグは偏屈でもひねくれ者でもないが、復帰作に“いかにも”な大仰さがないのは、もはやドラマだろうが映画だろうが何の垣根も感じていないということ。実際、次の新作「Mosaic」はインタラクティブなアプリとしても配信され、その次に控えている「Unsane」は全編iPhoneで撮影したホラーだという。フットワークの軽さは相変わらずハリウッド随一だ。
そして「ローガン・ラッキー」は、自身の大ヒット作「オーシャンズ11」になぞらえられるのも納得の犯罪コメディだ。足の負傷でアメフト選手の夢を諦めたジミー(チャニング・テイタム)と、戦争で片腕を失ったバーテンダーの弟クライド(アダム・ドライバー)が、悪運を跳ね返すべくレース会場からの現金強奪を計画する。とはいえ犯罪はド素人のふたりは、(地元では)伝説の爆破犯ジョー・バング(ダニエル・クレイグ)に協力を仰ぐ……。
すっとぼけたミスで笑いを誘いつつ、案外巧妙な犯罪計画が進んでいく語り口は「オーシャンズ11」の地方バージョンといった趣き。テイタム、ドライバー、クレイグにヒラリー・スワンクまで加わるオールスターキャストであることも共通点だが、どの出演者もみごとに役に埋没しているのが素晴らしい。実は「オーシャンズ11」シリーズもそうだったが、メインディッシュは作戦の成否でなく、不器用でマヌケで愛すべきキャラクターたちなのだ。
もうひとつ、この映画の主人公と呼びたいのが、物語のキーにもなっている曲「カントリー・ロード」で歌われるウエストヴァージニアや、NASCARレースの本拠地ノースカロライナといった田舎の諸州の空気感。洗練とは程遠く、のんびりした時間が流れているからこそ成立するストーリーや世界観なのだ。地方が抱える閉塞感もさらりと忍ばせてはいるが、決して深刻ぶらない風通しのよさが心地いい。
ユルい「オーシャンズ11」という評価も出るだろうが、それも織り込み済み、計算ずくなのがいかにもソダーバーグ。隙があるようで隙のない粋なエンタメである。
(村山章)