「新宿武蔵野館にて観賞」ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦 shallowwhiteさんの映画レビュー(感想・評価)
新宿武蔵野館にて観賞
「類人猿作戦」については、既に『暁の七人』が描いている。
怖気が走るほど非道なナチスの統治下にて任務を遂行する心細い雄壮さと、それにより受ける凄絶な対価が描かれ、胃がキリキリと痛み底冷えする傑作だった。
見た後で知ったが、『暁の七人』は史実をかなり忠実に描いていた。
本作は史実から、おそらくだが色々と脚色が施されている。束の間の逢瀬、それからの悲恋などドラマティック過ぎるくらいだ。
傲岸で激しやすいヨセフ(キリアン・マーフィー)と、情に厚いヤン(ジェイミー・ドーナン)とキャラクター付けも分かり易い。
裏切り者チュルダも大事なところでヘマをする後付けの人物造形が為されている。チュルダの裏切る理由は金と怯懦で史実通りだが、「あの時代、誰もが立派でいられなかった」という感じの『暁』と比べて冷淡だ。
レジスタンス夫人の亡き後の斬首なんかも史実とおりだが、リアルの取捨選択がサディズム的で少々嫌な気分になる。
反比例して作戦の描写は非常に雑。
『暁』で丁寧に追われた暗殺へのトライアル・アンド・エラーは大幅に省かれ、重要なハイドリヒ暗殺の場面も『暁』とは比較にならないほど史実の再現度は低い。
と観賞しながら『暁の七人』と比して不満ばかりを感じたものだが、最期の境界包囲戦に於いて、一気に本作に引き込まれた。ショーン・エリス監督の本領は此処にあったか。
場所の利を活かして大勢を圧倒する姿に説得力があり、また銃撃戦の迫力においても『暁』を大きく上回る。
凄絶なその姿は、前半鈍かったジェイミー・ドーナンやハリー・ロイドといった役者も光らせている。
この戦闘シーンだけでも劇場で観る価値のある作品だ。
…だがしかし、何故か作り手はこの戦闘シーンに、テンポ悪くレジスタンス首謀者の自決を挟んで戦いへの没入を妨げるのだ。何故に。
地下で水攻め中の自決も、過剰にロマンティックで結局気が削がれるのだった。