ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命 : 特集
【新事実】シンドラー、杉原千畝、そして、“動物園”がユダヤ人を救っていた
300人もの命を救った“勇気ある女性の知られざる真実”が判明【今見るべき実話】
今、誰も知らなかった実話が明らかになる──第2次世界大戦中のポーランド・ワルシャワで、動物園園長夫妻が多くのユダヤ人を救った逸話を、「ゼロ・ダーク・サーティ」「オデッセイ」のジェシカ・チャステインが製作総指揮と主演を務めて映画化。「クジラの島の少女」のニキ・カーロ監督がメガホンをとり、「オーバー・ザ・ブルースカイ」のヨハン・ヘルデンベルグ、「僕とカミンスキーの旅」のダニエル・ブリュールも名を連ねた感動のヒューマン・ドラマ「ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命」が、12月15日に全国公開を迎える。
「シンドラーのリスト」「杉原千畝」には続きがあった
民族問題が噴出する今こそ、人間の尊厳を描く「新たな実話」を良作ファンに捧ぐ
ドイツ人でありながら、自ら経営する工場の「労働力」と称して1200人のユダヤ人を救ったオスカー・シンドラー、ドイツの友好国・日本の外交官ながら、ユダヤ難民にビザを発給し続けて6000人の命を救った杉原千畝──自らの危険を顧みず、ナチス・ドイツの弾圧、虐殺からユダヤ人を救った真実の物語に、私たちは胸を打たれてきた。そして今また、「シンドラーのリスト」「杉原千畝 スギハラチウネ」に匹敵する「新たな実話」があったことが分かった。
1939年のポーランド・ワルシャワ。まさに第2次世界大戦直前、当時ヨーロッパ最大規模を誇るワルシャワ動物園を営んでいたアントニーナとその夫ヤン。強い信念と生きとし生けるものへの深い愛情を糧にナチス・ドイツに立ち向かい、300人の命を救った姿が、名女優ジェシカ・チャステインの高い志によって、今、克明に描かれる。民族紛争や難民問題、そしてヘイトスピーチ。差別感情や過剰な民族意識が後を絶たない今だからこそ、本作で「人間の尊厳」を見つめ直してほしいのだ。
「女性版シンドラー」というべき秘話がポーランドにあったことが、ついに明らかになった。シンドラー、杉原も危険を顧みず「人としての正しさ」を貫いた姿が素晴らしいが、当時、ユダヤ人をかくまえば即処罰されるという状況にも関わらず、「動物園を所有している」立場を活用する驚きの策に打って出たのだ。戦争から20年後、先の2人と同じくイスラエルから「諸国民の中の正義の人」の称号を授与された偉人だ。
この、生きる者への分け隔てない深き愛情と強い信念をもって、ユダヤ人を救うという困難な道に挑んだ偉人を、絶対に映画にしたいと考えたのは、2度のアカデミー賞ノミネートを誇り、「ゼロ・ダーク・サーティ」でゴールデングローブ賞主演女優賞を獲得、「女神の見えざる手」では、その圧倒的な演技力で人々を魅了した実力派女優ジェシカ・チャステイン。原作となったダイアン・アッカーマンの同名ノンフィクションに記されたアントニーナの文化を守ろうとした勇気に感銘を受け、主演に加えて製作総指揮も手掛けたのだ。
「すべての命は等しく、すべての命は守られるべきものである」とは、アントニーナの言葉だが、大戦当時以降で、今ほどこの真意に向き合わねばならない時代はなかったのではないだろうか。世界各地における民族紛争や難民問題、テロ、そして差別感情──押さえ込まれてきた数々の問題が、日本においても噴出している今だからこそ、命とはなにか、そこに優劣はあるのかと、自問自答しなければならないのだ。本作を見る意味、それは単なる映画鑑賞にとどまらない重要さを持つ。
【驚嘆】彼女はいったいどうやってナチス・ドイツの目を欺いたのか?
それは“ある方法”でユダヤ人を脱出させ“動物園に隠す”ことだった──
「ユダヤ人を救った動物園」というタイトルの通り、アントニーナたちは自分たちが運営していた動物園の地下にユダヤ人たちをかくまって命を救ったが、では、ゲットー(強制居住区)に押し込まれていたユダヤ人たちを、いったいどうやって連れてきたのか? 劇中ではその驚くべき方法が明らかにされるほか、ドイツ軍の監視の目をどのようにかいくぐりながら潜伏生活を送るのかが、スリリングに描かれる。動物たちに囲まれた平和な生活が一変し、死と隣り合わせになりながらも、自分の愛と信念を貫く。緊迫感たっぷりな物語は、どのような局面を迎え、感動のラストへとつながっていくのか。その行方から目が離せなくなる。
39年の秋、ナチス・ドイツがポーランドに侵攻してきたことで第2次世界大戦が勃発する。上空から投下される爆弾は、アントニーナと夫ヤンが運営するワルシャワ動物園にも容赦なく降り注ぎ、壮絶な状況となる。平和な日常は帰ってこない──多くのユダヤ人が、ドイツ軍によって次々とゲットーへと収容されていく……。
貴重な動物はドイツ軍に没収され、その他の動物たちは虐殺されてしまった。もはや閉鎖するしかない動物園だったが、ヤンは、ドイツ兵の食料となるブタを飼育する「養豚場」として存続させることを提案する。それはすなわち、「ユダヤ人の隠れ家にする」ということでもあった。アントニーナは戸惑いながらもその言葉を受け入れた。
動物園を隠れ家とする受け皿はできた。それでは、ここにどうやってユダヤ人を連れてくるか……だ。ヤンはゲットーに赴き、孤児院を運営するコルチャック先生(作家・教育者としても知られるポーランドの偉人)らに協力をあおぐ。「どう運んだのか?」かはここでは伏せるが、驚くべき方法でひとり、またひとりと動物園への脱出を果たしていく。
地下にある動物用のオリを寝床に、ユダヤ人たちの潜伏生活が始まる。温かい食事と毛布が振る舞われ、人々は元気を取り戻していくが、園内には常にドイツ兵が駐在し、彼らの目を欺く必要があった。「隠れて」「静かに」という合図をピアノで行った。その忠実な再現にも注目だ。
動物園へ逃げてくるユダヤ人の数が増えるとともに戦乱は激しくなり、それに伴って監視の目は厳しくなっていく。一瞬たりとも気が抜けない状況を、アントニーナは軍属の動物学者から寄せられる好意も逆手に取って切り抜けていく。ゲットーのユダヤ人は、いよいよ強制収容所に移送される段階へと突入する。アントニーナたちは、ついに国外への脱出を決意するが……。
【過酷】戦乱のさなか、動物園はどのような状況に置かれていたのか──
旭山動物園を再建させた小菅正夫氏が明かす、戦時下の動物園が体験した歴史
第2次世界大戦という過酷な状況に置かれた動物園──その詳しい歴史を元・旭山動物園園長で獣医師、札幌市環境局参与の小菅正夫氏が解説。本作を通して描かれる「動物園の使命」、そして「動物園が象徴するもの」について明かした。