「のめり込み女優入魂の一本」ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命 うそつきかもめさんの映画レビュー(感想・評価)
のめり込み女優入魂の一本
個人的に好きな女優さんなので、彼女の出演作はなるだけ見るようにしている。見る前の印象は「重たそうだな…」まあ、だいたいは、重厚なヒューマン系ドラマ作品がほとんどで、見終わった後に考えさせられるような役回りばかり演じているのだけれど、今回は、時代の波に飲み込まれる優しく、美しい女性。いままでの力強い印象の女性像とは一味違う。
史実に基づいて作られた映画なので、脚色がどの程度施されているのか分からないが、あえてステレオタイプの歴史に翻弄される女を体当たりで演じている。とにかく、初めから終わりまでジェシカが出ずっぱりで、ファンとしては見ごたえがある。それでも、重たそうな印象を少しでも軽くできれば、と思い、吹替え版で見たのだが、どうしても気になったので、やっぱり字幕スーパー版に切り替えて見直した。
例えば、サンクトペテルブルクという地名がセリフの中にあるが、歴史上はレニングラードじゃないのか?なんてことが気になって、吹替え版では分からないことが確かめたかった。いずれにしろ、登場人物たちはみな英語で会話するので、ドイツ訛りのドイツ兵、ユダヤ人がお祈りに唱える言葉、言葉遣いにそれなりの配慮はあるものの、最大多数に楽しめるように作劇してある。『女神の見えざる手』の、セリフの多さに圧倒されたが、字幕は素晴らしかった。今回も、字幕の担当は松浦美奈さん。なんとなく、ジェシカ・チャスティンの作品には、彼女の翻訳が合っているようだ。
映画として見ると、抑制された演出で、見るものに想像させる作りになっているようだ。前半部分は、猛獣の檻に爆弾が落ちる描写があったりして、ド派手な戦争が展開するのかと思ったりもしたが、あくまで、人間のドラマに重点を置いて作劇しているので、予算配分的に、カロリーの高い画面作りには限界があったようだ。
これから数年以内に、ジェシカがオスカーを獲得できないかと、気を揉んでいる。なにかと体制に反目するようなギリギリの問題作が続くので、政治的判断が問われるだろうが、そういう役を好んで演じているに違いない。それでも、『オデッセイ』『インターステラー』なんて娯楽大作にも溶け込むし、『X-MEN』の新作に名前が挙がっていたりする。これからも目が離せない女優さんだ。