「ある映画監督Mの罪」ラプラスの魔女 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ある映画監督Mの罪
三池崇史が東野圭吾ミステリーを映画化。
意外な組み合わせ!
話の方も、
離れた2つの温泉地で硫化水素による死亡事故が発生。
単なる偶然か、それとも…?
現場で目撃される謎めいた少女。
地球化学専門の大学教授が不可解な事件を紐解く…。
『ガリレオ』を彷彿させ、なかなか面白そう。
ここ最近ずっと、心配なくらい駄作続く三池だが、久々に期待も出来そう。
…が!
結局三池にまた一つ、駄作が加わっただけだった。
まずタイトルの“ラプラス”とは、18世紀に実在したフランスの数学者。
ある一定の時間空間の中の力学状態や力を正確に把握出来る知性があれば、これから起きる物事を予測出来る…という大胆な説を唱えた。
つまり、この世のあらゆる万物には必ず法則があり、全て化学の想定内という事。自然現象や予知能力も。
あくまで理論上の仮説であって、確たる証拠は無く、否定論もあるらしいが、非常に興味深い。
で、これを題材にした知的な化学ミステリーを期待すると、肩透かし。
一見化学的で現実的なミステリーだが、実際は非化学的で非現実的なSFみたいなんだもん。
説はいいとしても、作品的には突出し過ぎて、ちょっと有り得ないよね…。
これら化学要素を取り除くと、単なるチープな復讐サスペンス。
人の道理から外れるような手術を受け、“ラプラスの悪魔”となった少女と青年。
各々抱える孤独と苦悩。
青年の家族の悲劇。
父親の映画監督の罪。
化学の罪。
題材は悪くないのに、それを活かし切れない演出と脚本。
東野圭吾ミステリーの醍醐味である上質なミステリーと悲しき人間ドラマもほとんど味わえない。
犯人も途中で分かっちゃう。
本来なら話に踏み込んで、登場人物たちの感情や犯人の動機、何故そんな犯行に及んだかを書かなければならないが、それを勘弁して欲しいくらい何を描きたかったのかよく分からない。
面白味が見当たらなかった。
何もかもダメダメな、結局いつもの三池駄作。
ひょっとしたら、見る前からある程度予測は出来たのかもしれない。
キャストたちも本来の実力を発揮出来ず。
とにかく、櫻井翔の演技が酷い。ちょっと変わり者の大学教授って役柄だが、“ガリレオ”には全く程遠い。ってゆーか、何も活躍してねーし。
実質主役は、広瀬すずだろう。彼女と並ぶと、殊更櫻井翔の演技力の無さを痛感してしまう。
複雑な役所の福士蒼汰も力量不足。
衝撃的だったのは、トヨエツ。好きな役者で実力派なのに、まさかの大根演技…。
キャストで好印象を持ったのは、リリー・フランキーと志田未来くらいか。
これも監督の才能の無さかと疑わずにはいられない。役者に声を荒らげさせ苦悩の台詞でも言わせりゃ、熱演と勘違いしてるようだ。
クライマックスはもう化学なんて何処へやら。劇的な舞台を用意して最高の映画を作ったつもりが、とんだ三文芝居を見せられた。
どーでもいい事だが、鬼才と言われながらも今や狂人と化した劇中の映画監督に、同じくかつて鬼才と評価されながらも今は迷走する三池は何を重ねただろうか…?
本当に他に感想も語るべきものもナシ。
劇中に掛けて言うならば“ある映画監督の罪”か、別作品のタイトルを借りて言うならば“映画監督Mの失敗”か。
実につまらない。
もうこの監督に期待するのは止めよう。