「ハリウッド映画のようなドイツ産ハートフル・コメディ」5パーセントの奇跡 嘘から始まる素敵な人生 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
ハリウッド映画のようなドイツ産ハートフル・コメディ
思春期に発症し出した病気のために、95パーセントの視力を失った青年が、憧れていたホテルでの仕事に就くために視力の障害を伏せて研修に望むハートフル・コメディ・・・という風にこの映画の事を解説して、おおよそ映画のすべてが語りきれてしまうというのは、些か残念な気も・・・。
ドイツで生まれたこの作品は、いい意味でも悪い意味でも、なんだかハリウッドのハートフル・コメディを見ているかのよう。いい意味でハリウッド映画のように明朗だし爽やかだし喜劇は分かりやすくロマンスは程よい甘みだし・・・。けれども一方で、悪い意味でハリウッド映画のように大味だしご都合的だし、展開の一つ一つが単純化されてまるで記号のように類型的だし、そのため実話を基にしているというのにどこか現実感のない絵空事のように思えるところも少なくない。ただまぁ、それは必ずしも欠点というわけでもないかもしれないとも思う。ある種「ハリウッド・コメディの様式を擬えたドイツ映画」として観る分には十分に楽しく清々しい作品だからだ。個人的に最近ちょっとハードな作品が続いていたので、この映画で気分がリフレッシュされるような感覚もあったし決して悪くはなかった。
この作品にはモデルになった人物がいるというので少々言葉が憚られるのだが、あくまで映画として5パーセントの視力の主人公が5ツ星ホテルでの研修で奮闘する、というのはトピックがあるし興味深い設定だとしても、ついつい現実的なことを考えるとホテル側からしたらなんとも迷惑な話だよなぁとふいに冷静にさせられる部分も。勿論、障害があるからと言って就労に差別があってはならないとは思うが、かと言って雇用には企業側の責任が伴うわけで、そこに嘘が存在してはやっぱりいけないし、サリーの失敗を補償するホテル側の立場を考えると・・・なんて私はついつい企業側の気持ちになってしまったよ、まったく。なので単純に「がんばれサリー!」と手放しに応援する気にはなれず、何も知らない研修指導者を悪者のように見せるのもなんだかなぁ?と思いながら観ていた。かろうじて恋人の子どもを見失い、はぐれてしまった時に恋人から突きつけられる言葉により、サリーの独り善がりに冷や水がかかって少し安堵した次第。「いやいや、これは映画なんだからさ」と言うのも確かにその通りなんだけれど、でもそういう鈍感さや図々しさこそ、悪い意味での「ハリウッドっぽさ」なんだよなぁと思ったりもした。
なんだかんだと言いながら、私がこの映画を観て真っ先に思ったのはとにもかくにも、マックスってめっちゃいいヤツじゃん?ってこと。こういうハートフルコメディ作品では、「主人公の親友」がいい存在感を出してくれると気持ちがいいもの。そういう意味で、最初はあまり印象の芳しくなかったマックスが、その内面が出れば出るほどにとにかくいい友達なのが見ていて爽快。サリーに関わる人々がみんな善良で心優しい人たちであるというのも、2時間を快く過ごせた理由の一つだったと思う。
映画を観終わった後の気分もフィールグッド・ムービーという言葉そのものずばりだと思ったし、気分が落ち込んだり、難しいことを考えすぎていたりする時に、こういう映画を観るとやっぱりシンプルに元気が出るんだよな・・・と実感するのだった。