「本来のバリアフリーをめざす"障害者コメディ"という意欲作」5パーセントの奇跡 嘘から始まる素敵な人生 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
本来のバリアフリーをめざす"障害者コメディ"という意欲作
これは障害者視点で描かれる、"障害者コメディ"といっていい。新しいタイプの映画だ。
本作は実話ベースだが、自虐要素もある、"障害者あるある"を楽しんでいるふうさえある。チャリティの「24時間テレビ」のパロディで話題になった、NHKの「バリバラ」(バリアフリーバラエティー)の考え方に似ている。
若くして95%の視力を失った青年が"5つ星ホテルで働きたい"という夢をめざす…という設定から、反射的に"感動しなければ"と身構えてしまうのは、おカド違い。
本作は、"障害者"の起こすドタバタ劇の中で、困難に立ち向かう前向きな青年の強い意志と努力を明るく描いているが、"健常者"の若者だってやはり立派なホテルマンを目指して頑張っている。
"障害者"を"健常者"と同等に扱うことを本来的なバリアフリーとするならば、哀れみを乞うような典型は、すでに"上から目線"なのではないか。
本作はさらに、障害者の行動や姿勢を、健常者より"模範的"に描くようなこともしていない。
主人公のサリーは、目が見えないことを隠してホテルの面接をクリアして見習いになる。理由はどうあれ、これは"経歴詐称"という立派な犯罪である。頑張れる、頑張れないの問題ではなく、本来なら即刻クビである。
追い込まれたサリーがクスリに手を出して堕ちていくところなどは、"単なるバカ"である。また目が見えないのに子守りを請け負い、迷子にしてしまうなんていうのは、愚の骨頂である。"健常者"のなかにもバカはいるし、"障害者"のなかにもバカはいるという、あたりまえを描く。
原題もシャレている。"Blind Date"というのは、"友人などの紹介で、初対面の人とデートする"ことで、お見合いの変形みたいなもの。それと"Blind=盲目、目の不自由な人"を掛けている。弱視の主人公が、ホテルの経営者や同僚たち、お客さんたちと触れあって人生を切り拓いていくことを見事に言い表している。もちろん邦題はミスリードである。
セクシャルマイノリティも含め、ダイバーシティ(多様性)な映画を作ることを是とするならば、健常者が作るこれまでの映画は偏見に満ちていた。
本来のバリアフリーとは、こんな映画を観て、"すごく笑えた"、"楽しかった”と何も考えずに言えるようになることなのだろう。
(2018/1/16 /角川シネマ有楽町/シネスコ/字幕:吉川美奈子)