「ジェシカ・チャステインの小粋なパフォーマンス」女神の見えざる手 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
ジェシカ・チャステインの小粋なパフォーマンス
「ロビイスト」という職業は、映画においてはケヴィン・スペイシー主演の「ロビイストの陰謀」が記憶に新しく、そちらも最終的には投獄される物語となっており、なかなかきな臭い職業のイメージが強い。この「女神の見えざる手」におけるジェシカ・チャステイン演じるミス・スローンも、善人なのか悪人なのか、俄かには判断がつかない多面性を持っている。手段を択ばないだけで正義感の強い人物なのかもしれない。否、私利私欲のために機敏に動く悪人かもしれない。映画を観ている間中、彼女の印象は二転三転し、またストーリー展開としても政治活動のパワーバランスがあちらに傾いたりこちらに傾いたりする様子にもどんどん惑わされてしまう。しかしそれが映画的な楽しさに繋がっていて実に良かった。
何しろテーマが、銃規制を強化すべきか否か、というアメリカという国においては実に真剣な題材であり、どちらの意見が正しいでもなければ間違っているとも言えないだけに、双方がそれぞれに尽力してロビー活動をして己を主義主張を貫かんとする闘いに見応えが出るし、だからこそ絶妙なパワーバランスの振り子運動が物語を揺るがして面白い。そしてその振り子が揺れれば揺れるほど、観客の銃規制に対する考え方にも揺さぶりがかかってくる。題材としては決して爽快なものではないはずだが、映画としてそれを魅せ切ったところは評価に値すると思う。
いろいろ書いたが、結局のところこの映画の一番の見どころはジェシカ・チャステインだ。もはや「チャステイン・ショー」とでも言いたくなるほど彼女の魅力と力量がこの作品の中であふれ出ている。善人でも悪人でもなくただただ有能で冷淡で俊英なロビイストを、チャステインが小股の切れ上がった粋な演技で表現し、長台詞も完全に自分のものにして、自分のセリフ回しでシーンのテンポづくりから構成までできてしまうほどに映画を牛耳っていた。彼女がいかに冷徹なふるまいや言動をしようとも、その存在感はなんだか痛快でしかない。ちょっとアクション要素を加えたらヒーロー映画に出来てしまうんじゃないか?って思ってしまいそうなほど。物語の中で007に言及するシーンがあるが、最後の展開なんて007にも匹敵する快感が走っ(うまく行きすぎ感は否めないものの)。
肩の長さでバッサリと切り揃えられたまっすぐな髪のように潔いヒロイン像を体現したジェシカ・チャステインが、ひたすら格好よく、その粋な演技と丹念に練り上げられた脚本が堪能できるいい映画だった。