めがみさまのレビュー・感想・評価
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もっと深めて欲しかった
人間の心のコアな部分に焦点を当てた物語だったので、前半はかなり面白く観ていました。が、後半はストーリーがとっちらかって失速してしまったなぁ、という印象を持ちました。
本作品は赤ちゃんが象徴的に用いられています。これは、ラブの行動原理は人生の最初期から大切にされなかったことへの怒り・復讐であることを示唆しているように思われ、それ故に哀しみも感じました。ラブは満たされない赤ちゃんとして生きているんだなぁ、と伝わってきます。
怒りの発露を解放と勘違いし、それ故徐々に破滅に向かって行く様も実にゾクゾクしました。
理華の家庭の地獄感もすげえリアルに迫ってくるし(母親の床ドンはヤバい!)、キャラ造形やテーマは素晴らしかったと思います。特に、理華の救われなさは本当に観ていて胸が詰まりました。
それ故、後半の雑さが惜しいです。
理華がラブの正体を暴くセリフも、理華の成長によるものではなく、追い詰められてのカウンターパンチみたいで、説得力に欠けるように思えてしまった。
ラブ=理華というファンタジーなオチは出会いの辺りから割とバレバレで、途中までは納得できていたのですが、ひとつになっていくプロセスに違和感があり、腑に落ちなかったです。
自らの影が統合されていくプロセスは、成熟により進んでゆくため、ポジティブなイメージを伴います。
しかし、ラブと理華の統合には、成長・成熟はありませんでした。おそらく、ラブ=理華の成長には、赤ちゃんとして安心して生きていい、生まれてくれてwelcome 的な抱えられ体験のようなものが必要と思われますが、物語にはそれが出てきませんでした。
(それがイケるポジションに川崎というキャラがいたのだが、残念ながら書割りで終わってしまった)
主体である理華の成長が描かれていないため、2人が2人のまま破滅するか、影であるラブに理華が取り込まれるのであれば自然だと思います。しかし、オチはラブが理華に統合されてしまうため、不自然さは拭えません。
統合されたあとも、いつものしょんぼりした理華が変わらずいるだけ。クライマックスはモヤモヤしただけで何も残りませんでした。
三坂の物語なども尻切れな印象を拭えず、盛りだくさんにしようとしたため物語が拡散し、深まらなかったように思えます。
意欲的なテーマに挑んだ作品だったので、本当に惜しいし残念極まりない、というのが感想です。
人格障害サスペンスの定石。松井玲奈の実力を楽しめる小品
松井玲奈という女優の実力を楽しめる、ちょっとしたお得感のある小品である。
彼女のプロフィールに"元SKE48"というバッジがついてまわるのは、主演映画の成立要件ではある。しかし、こうして"女優"としてのセンスが磨かれてくると、"アイドル偏見"は障壁にしかならない。
"理華"(松井玲奈)は、職場でのいじめや母親の干渉に悩み、精神安定剤に依存する、コミュニケーション弱者。そんな彼女が出会ったのは、"ラブ"(新川優愛)と名乗る自己啓発セラピスト。あっという間に、"ラブ"のとりこになる。
そして、"自らの思いのままに行動し、発言し、我慢をせずに生きていく"、というラブの主張に傾倒していくうちに、常軌を逸した状況に陥っていく。行き着いた先に待ち受ける、どんでん返しのあるストーリーだ。人格障害サスペンスの定石を使った、プチ「シャッターアイランド」(2010)。
作品として、予算・時間のなさが演出の幅を狭めているのは仕方ないとして、定石としては悲劇的なオチにしないと中途半端になる。どうせ不条理な展開なのだから、最後で丸められても救われない。
松井玲奈は、地味で内向きな女の子をさらりと演じているが、前作の「笑う招き猫」(2017)での、"オンナ漫才師"役とは正反対だ。
誤解を恐れずにいれば、"その他大勢アイドル"の中で育てられた松井玲奈に銀幕主演の華はない。主演ができないという意味ではなく、彼女自身がこうして実力を提示していけば、あとは、いい監督、いい作品に出逢える運だけである。
(2017/6/13/シネマート新宿/ビスタ)
アンビバレンツを見事に描いた秀作
人は自我の塊の赤ん坊として産まれ社会性をもとめられ自我を殺して生きてゆく。誰しも、そのバランスをどうとるかに悩み苦しむ訳だが、この映画は二人の対象的な女性の生きざまを通じて、その葛藤を観るものに考えさせる。ラストシーンはラブの存分そのものが、アンビバレンツな心が産み出したアイドルだったのだと観客に気付かせる。してやられた感は、強烈だった。主演女優二人も監督も若い。今後の作品も楽しみ。
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