劇場公開日 2017年10月27日

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「『違い』こそ強くて脆いと再認識させる傑作」ゲット・アウト わたろーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5『違い』こそ強くて脆いと再認識させる傑作

2020年8月12日
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個人的にホラー映画は苦手です。そもそも怖がりというのもありますが、不条理性の高い作品をエンタメに求めていないというのが根底にあります。そんな中、監督の最新作「アス」に牽かれてこの作品も見ました。個人的にはアス以上に好きだし、オールタイムベスト級の作品でした。

近年、女性の社会参加、子育てをしながら仕事も進めるを推進する体制が整ってきています。素晴らしいことです。これは前提です。とはいえ、男性も自ら望んで男性に生まれてきたわけではありません。もしかしたら、自分のお腹の中に子どもがいるという体験を心から望んでいる男性もいるかもしれません。レディースデーや女性専用車両しかないのはどうして?専業主夫が認められにくい世の中なのはどうして?と思っている男性もいるでしょう。ここで言いたいのは、特にフェニミストと呼ばれる人たちが「女性は立場がまだまだ低い」と訴えるのに対して、そんな女性になりたい、もしくは低いと言われている立場にこそ憧れがあると思っている男性も一定数いるということ、さらにフェニミスト的な活動が加速しすぎるとひいては男性に対して無自覚に差別的な意識を持ちうる可能性があるということです。

この映画ではその構図を「黒人」と「白人」に置き換えると少し分かりやすく見えてくるなと思います。「オバマ大統領は素晴らしい」「黒人を差別なんてしていない」と意識的に何度も語られることが黒人側にとっては違和感を覚えるという描写から始まっていくのですが、ハッとさせられました。そうした『違い』こそ決定的な強さを持ち、その一方で人間的な脆さを露呈してしまうという、面白いメッセージを提示してくれた作品でした。

演出というか伏線の張り方も実に巧みでした。デフォルメし過ぎず、でも何か違和感を抱かざるを得ない会話や身の振り方が、最終的にどんどんと回収されていく様は本当に見事としか言いようがない。

話の着地の仕方も良い余韻でした。監督が始めに作ったラストとは変えているらしいのですが、こっちの方が良いと思います。首を絞めたくても首を絞められなかった想いこそ、帰属意識だろうと思います。その事実を誇りと思えているかどうかは別として。

何度でも見返したい作品です。

わたろー