「両腕をひじ掛けに縛られたまま、耳に手が届くか確認してみたり・・・」ゲット・アウト Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
両腕をひじ掛けに縛られたまま、耳に手が届くか確認してみたり・・・
超一流のサスペンス映画である。何が凄いって、その伏線のひきかた。動機設定のアイデアもさることながら、これだけ練られたプロットはなかなかない。
主人公の黒人クリスは、恋人である白人ローズの実家に挨拶へ行くことになる。クリスの心配は、"ローズが両親、家族に自分が黒人であることを伝えないこと"だが、ローズは、"両親は人種を気にする人じゃない"と一蹴する。
ところが、郊外の人里離れたアーミテージ家に訪れると、そこは黒人の使用人2人がいる典型的な白人家庭だった。父親はオバマ大統領支持だと言ったり、深夜の庭を走り回る黒人使用人。クリスの感じる違和感は、徐々に不安から恐怖に変わっていくことになり…。
不気味な怖さは、「パラノーマル・アクティビティ」を始めとするホラー作品を量産する、ジェイソン・ブラムが率いる"ブラムハウス・プロダクションズ"がプロデュースする作品なので、想像がつく。ところが監督・脚本は映画デビューとなる、アメリカのお笑いコンビ"キー&ピール"のジョーダン・ピールという異色な作品。
ピール自身、"お笑い"と"ホラー"は表裏一体といったコメントをしているが、実際、ウイットに富んだシニカルなセリフ回しに、"笑えない怖さ"を感じる瞬間がある。
アフリカ系アメリカ人に対する人種差別問題を逆手に取った、意外すぎるほど秀逸なオチ。この映画は、"差別"と"羨望"も紙一重かもしれないと指摘していたりもする。観終わると、セリフでもある"Get out"の意味に、"なるほどね"と膝を叩くことになる。
この作品には、ミステリー作品にありがちな”穴”が見当たらない。とにかくツッコミどころがないのだ。・・・あとで、両腕をひじ掛けに縛られたまま、耳に手が届くか確認してみたり・・・ふふふっ(笑)。
リアクションがウソっぽくないのは、徹底的に練られ、丁寧に拾われた細かな配慮の完全主義にある。人物設定、セリフ、行動、小道具…。カメラのフラッシュが必要な要件なので、主人公はカメラマンでなければならないし、そこからその才能に憧れる、失明した画商の人物設定も引き出される。
序盤の警察官の対応から、警察に対する不信感を植え付け、警察官による黒人への不当な対応を彷彿とさせる。エンディングでの赤色灯のドキドキ感。ところが友人が警備員という設定回収の巧みさに唸る。ホントは別エンディングもあったらしいが、Blu-rayで収録されるという。
(2017/10/28/ユナイテッドシネマ豊洲/シネスコ/字幕:種市譲二)