「タイトルなし(ネタバレ)」犬ヶ島 spinx003さんの映画レビュー(感想・評価)
タイトルなし(ネタバレ)
ウェス・アンダーソンによるストップモーションアニメ『犬ヶ島』は、その可愛らしい見た目に反して非常に深刻で重たいテーマを内包している。完璧に整った構図と色彩が徹底され、ゴミの山ですら美しく描かれている点が印象的だ。暴力も悲劇も、淡々とした演出が続くことで、その余韻がより深く感じられる。アニメーションの可愛さを見せながら、もちろんブラックジョークの切れ味が冴え渡る。
物語は、近未来の日本を舞台に、犬インフルエンザの流行を理由にすべての犬がゴミの島へ追放されるという極端な政策が敷かれるところから始まる。市長の養子である少年アタリは、行方不明になった愛犬スポッツを探すため、島へ向かうことを決意。そこで出会う犬たちは、リーダー気質で疑り深いチーフ、理知的なレックス、食い意地の張ったデュークなど、強烈な個性を持ち、彼らの会話のテンポが心地よく流れる。社会から切り捨てられた存在でありながら、犬たちのほうが誠実で仲間思いに見えるのが不思議で、感情が揺さぶられる。
本作で特に特徴的なのは、日本語がほとんど翻訳されない点だ。観客は完全には状況を理解できず、犬たちと同じ「よそ者」の立場に置かれることで、その違和感が権力による情報操作や排除の怖さを際立たせている。市長はロボット犬制作会社と手を組み、ワクチン開発を進める医者を排除するなど、独裁的な政策を取っていた。
アタリと犬たちはスポッツを見つけ、他の犬たちをも助け出すことに成功。終盤、チーフの過去が明らかになり、彼がスポッツの兄弟であることが分かるシーンは心に残る。チーフが流した涙に、思わず感動してしまった。
『犬ヶ島』は単なる「犬の映画」ではなく、社会から排除された存在をどう扱うべきかを鋭く問う作品だ。可愛さだけでは終わらない、静かに刺さる深いメッセージを持っている。随所に散りばめられた日本文化へのリスペクトは、ウェス・アンダーソンの黒澤明や宮崎駿への敬意を感じさせる。『ファンタスティック Mr. Fox』も再評価されてほしい。
