「とても観やすいのに深い」犬ヶ島 ありきたりな女さんの映画レビュー(感想・評価)
とても観やすいのに深い
やっと観られた!
制作に四年もかかったのもわかるなあ、犬たちの毛並みや表情の細やかさに驚いた。
外国の方から見た日本(もちろんデフォルメされているにしても)ってこんな感じなんだな〜と思いつつ、
市長の独裁政治とプロパガンダ、途中犬のカニバリズムや犬社会の中での上下関係(結局実態は違ったけど)など、人も犬も社会の中でとても生きづらそうだったし、現実世界をうまーく描いていて絶妙だった。
そこを打破していくアタリ少年とスポット&チーフと犬たちは、アウトローな生き方や特殊な立場を持っていながら、そこからマジョリティや権力に自分たちなりのやり方で反旗を翻してゆくわけだけど、そのスポットを探す旅の過程も冒険物語としても見事でとても面白い。
アタリとチーフの絆が生まれたり、スポットは彼なりの新しい人生を見つけていたり、それゆえにスポットからチーフへとアタリのボディガードならぬ相棒のような役目を託されてゆく。スポットは家庭を持ち、アタリは市長としてメガ崎市を良くしていってくれるだろうな。新しい世代、新しい価値観への流れが気持ちいい。
「〇〇の犬」という言葉はネガティブな意味でしか聞いたことがなかったけれど、仲間や同志としてあなたを認めるという意味合いでは、初めて聞いた気がする。
ラスト、春の花に満ちたメガ崎でのチーフとナツメグの顔のクローズアップに、桜の花びらがふっと貼り付き、それに気づいたチーフはナツメグの顔の花びらを飛ばしてやる…このシークエンスにかかったであろう時間や労力と共に、こんなささやかな描写がなぜか印象に残った。
私たちは四季の美しい国に住んでいる、日常や社会の営みも汚れない国であってほしいと思った。